臨床薬理の進歩 No.42
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ラボでの生活について遺伝因子が指摘されてきており、多くの遺伝子多型が見つかっております。ただ、1つの遺伝子多型のみでAIWGを説明できるわけではなく、複数の遺伝子の関与やまた環境因子など複雑な要因が相互に影響するため、これまでのところAIWGを抗精神病薬投与の前に予想する頑健なバイオマーカーはないのが現状です。こういった現状に鑑み、私が所属するラボでは、複数の遺伝子多型を組み合わせ、さらには機械学習などの技術も用いてAIWGのリスクモデル構築を行うことを大きな目標としてきました。まず、モデルに組み入れる遺伝子多型については、AIWGの病態からそれに関連する候補遺伝子とAIWGの関連を調べる方法(仮説ベース)と、仮説ベースではなく網羅的な探索を行いAIWGと関連する遺伝子多型を特定するゲノムワイド関連解析(Genome Wide Association Study: GWAS)を用いてリスクとなる遺伝子多型を調べてきました。特にGWASについてはその統計学的手法の観点から調べるサンプル数も多く必要であり、CAMHでの当ラボのデータ以外にも、AIWGの薬理遺伝学に関するコンソーシアム(http://www.pgrn.org/aiwg.html)を通じて共同研究者からデータを共有してもらいながら、解析に用いるサンプル数を増やしております。当ラボには、バイオインフォマティクスを専門とするポスドク2名とPhD候補生が1名在籍しており、彼ら彼女らが機械学習の手法を用いて特定された遺伝子多型および種々の人口統計学的特性を組み合わせながらリスクモデル構築を目指し日々研究しております。私自身はその前身としての予備的なリスクモデル(既報のAIWGに関連する遺伝子多型を組み合わせて)の構築に携わってきました。同時に、同僚や周りの研究者からGWAS等の解析技術や機械学習についての知識なども学んできました。前述のように、遺伝情報は複雑かつ膨大であり、それゆえ、データサイエンス分野と相性が良く、私が所属しているラボだけでなく、CAMH全体としてもデータサイエンティストの力は重要となってきております。そういった現状から、今後はさらにデータサイエンスの分野もより勉強して行きたいと感じました。 ラボ生活の一般的な流れについて紹介したいと思います。まず、朝9時にラボに行き、メールや新しい論文の確認等を行います。その後は、自身の研究のデータ解析や他研究者とのミーティング等がメインとなります。週に1度ラボミーティングがあり、また別の日には遺伝部門全体での研究発表の場もあります。遺伝関連だけでなく精神科関連の勉強会やCAMH外での勉強会も頻繁に開催されており、時間が合う際には自由に参加ができ大変勉強になります。帰宅時間は本人に委ねられておりますが、だいたい17時〜18時には帰宅する研究者が多いようです。私は、日本では精神科医として医療行為を行っておりましたが、カナダで独立して医療行為を行う場合は、いくつかの条件をクリアする必要があります。具体的には、他国で医学教育を受けた者向けの医師国家試験Medical Council of Canada Evaluating Examination(MCCEE)に合格し、レジデンシーを行い、ライセンス取得後の最初の3ヶ月(Pre-Entry Assessment Program(PEAP)と呼ばれる仮採用期間)を終えてクリニカル・フェローとして正式に採用されます。私の場合は、主として遺伝解析の技術を学ぶことを目標としており、本執筆開始時点ではこの診療資格は有しておりませんでしたが、その後2020年6月に取得しました。土日祝日は基本的にはフリーとなり、夏休みや年末休暇なども適宜取ることができるなど、研究とプライベートをバランスよく充実させることができました。 178

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