臨床薬理の進歩 No.42
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結  論謝  辞利益相反CFTRチャネルが報告されている9)。加えて我々も、Ca2+活性化Cl-チャネル(TMEM16A)を報告した14)。本研究では、IPAH患者由来PASMCsにおいて、電位依存性Cl-チャネルCLCN2の発現増加を見出した。その発現量は、対照群と比較して、mRNAレベルで3.6倍に増加していた。免疫細胞染色法でも、CLCN2タンパク質の発現増加が認められた。また、CLCN6とCLCNKAの発現量もそれぞれ3.0倍と3.9倍に増加していた。ただし、CLCNKAの発現量は極めて低いレベルだった。以前より報告されているCLCN3の発現9)は、本研究でも確認されたが、その発現レベルはIPAH患者由来のPASMCsで有意に変化しなかった。現在、CLCNファミリーの中でも、CLCN1、CLCN2、CLCNKA、CLCNKB分子が細胞膜上の電位依存性Cl-チャネルを構成し、残りの分子は小胞膜上のCl-/H+アンチポーターであると考えられている3,8)。本研究で見出したPASMCsで発現するCLCN2チャネルは、細胞膜上でCl-チャネルコンダクタンスを形成することが想定される。また、CLCN2の発現増加が、PAHの病態形成に関与することも推察される。 PASMCsなどの血管平滑筋細胞における細胞内Cl-濃度は、30〜50 mMと推測される15)ため、Cl-の平衡電位は、-20〜-30 mVと概算される。この電位は、PASMCsの静止膜電位である約-60 mVより脱分極側である。そのため、Cl-チャネルの発現や活性の亢進は、脱分極を惹起する。その結果、電位依存性Ca2+チャネルの開口を介したCa2+流入が促進され、筋収縮が起こる。PAHのような病態では、PASMCsの形質が収縮型(分化型)から増殖型(脱分化型)に転換しているため、主なCa2+流入経路は、受容体作動性Ca2+チャネルやストア作動性Ca2+チャネルのような電位非依存性Ca2+チャネルとなる。電位非依存性Ca2+チャネルは、過分極によって活性化する。そのため、NFAによってCLCN2チャネルが抑制された場合、過分極が惹起され、電位非依存性Ca2+チャネルからのCa2+流入が促進されたと考えられる。その結果、PASMCsのアポトーシスが促進し、過剰な細胞増殖が抑制されたと考えられる。 PAHの発症や病態機構に関与する分子が複数報告されているが、全容解明には至っていない。長年、PAHには適切な治療薬が存在せず、薬物療法や患者のQOL改善が不十分であった。近年、肺血管拡張作用を有する選択的PAH治療薬が導入されたが、依然として十分な薬物治療が確立されたとは言い難い状況である。そのため、新規作用機序をもつPAH治療薬の開発が切望されている。本研究成果は、PAHの発症および病態機構の解明や、CLCN2チャネルを分子標的とした新規PAH治療薬のイオンチャネル創薬につながることが期待される。 本研究の遂行にあたり、研究助成を賜りました公益財団法人臨床薬理研究振興財団に深謝致します。 本研究に関して、開示すべき利益相反(COI)はありません。166

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