臨床薬理の進歩 No.42
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*1 YAMAMURA HISAO *2 HIRAI SEIJI *3 SUZUKI TAKAHISA *4 SUZUKI YOSHIAKI *5 IMAIZUMI YUJI involved in the pathogenesis of pulmonary arterial hypertension山村 寿男*1  平井 聖司*2 鈴木 貴久*3 鈴木 良明*4 今泉 祐治*5はじめに要   旨 肺高血圧症は、様々な要因により慢性的に肺動脈圧が上昇する病態である。肺高血圧症治療ガイドライン(2017年改訂版)では、健康成人の平均肺動脈圧10〜20 mmHgに対して、安静時の平均肺動脈圧が25 mmHg以上の場合を肺高血圧症と定義している1)。肺高血圧症は、その病因により5群に分類される。第1群は「肺動脈性肺高血圧症(PAH)」で、肺血管障害に起因する。第2群は「左心性疾患に伴う肺高血圧症」で、左室の収縮・拡張不全や弁膜症などで起こる。第3群は「肺疾患および/または低酸素血症に伴う肺高血圧症」で、慢性閉塞 肺動脈性肺高血圧症(PAH)は、致死性の難病である。PAH患者の肺血管では、過収縮(攣縮)や肥厚(リモデリング) が認められるが、その病態形成機構については不明な点が多い。近年、数種類のPAH治療薬が導入されたが、根治治療には至っておらず、依然として予後不良の疾患である。本研究では、PAH患者由来の肺動脈平滑筋細胞(PASMCs)に発現する電位依存性Cl-チャネルに着目し、PAHでの病態生理機能の解明を目指した。正常ヒトPASMCsと比較して、特発性肺動脈性肺高血圧症(IPAH)患者由来PASMCsの増殖率は高かった。その過剰な 増殖は、Cl-チャネル阻害薬であるniflumic acid(NFA)によって濃度依存的に抑制された。IPAH患者由来PASMCsでは、電位依存性Cl-チャネルCLCN2の発現増加が認められた。IPAH患者由来PASMCsにホールセルパッチクランプ法を適用した結果、NFA感受性のCl-チャネル電流が観察された。以上より、IPAH患者由来PASMCsで発現増加したCLCN2チャネルが、PAHのリモデリングの分子機構に関与していることが示唆された。名古屋市立大学 大学院薬学研究科 細胞分子薬効解析学分野           同   上           同   上           同   上           同   上性肺疾患(COPD)、間質性肺疾患、睡眠呼吸障害、高所における慢性低酸素曝露などに合併する。第4群は「慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)」で、器質化血栓によって肺動脈が慢性的に閉塞する。第5群は「詳細不明な多因子のメカニズムに伴う肺高血圧症」である。 肺高血圧症の中で最も典型的な臨床像を示すのが、第1群のPAHである。PAH患者の肺血管では、過収縮(攣縮)や肥厚(リモデリング)が起こるため、内腔が狭小化する。その結果、肺血管抵抗が上昇し、肺動脈圧の持続的な上昇が起こる。最終的には、右室に負荷がかかり、右心不全に陥る難病である。PAHの予後は極めて不良で、選択的な治療薬が存在Key words:肺高血圧症、クロライドチャネル、肺動脈、リモデリング、平滑筋160肺動脈性肺高血圧症の病態形成機構に関与するクロライドチャネルの機能解析Functional analyses of chloride channels

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