臨床薬理の進歩 No.42
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総  括謝  辞利益相反発現による表面水層の厚みの違いは、細胞外領域の分子量および糖鎖修飾の差に起因するものと考えられた。一方、薬物の細胞膜透過においては、細胞表面の水層の厚みが増すことで、膜近傍の細胞外薬物濃度の低下をもたらし、結果的に透過速度が減少することが考えられる。したがって、MUC1は細胞表面に水層を形成し、脂溶性薬物の細胞膜透過に対して抑制的に作用することが示唆された。 これら一連の考察は腸管上皮表面の非攪拌水層や粘液層の存在を想起させるものであるが、薬物の細胞膜透過を制御する決定的な要因とするには検討が不十分である。保持された水分の粘度や薬物とmucinタンパク質との直接的な相互作用など、薬物吸収を制御するこれらの分子機構の解明には、さらなる研究が必要であると考えられる。小括 本検討で得られた結果より、MUC1は細胞表面に水層を形成し、脂溶性薬物の細胞膜透過に対して抑制的に作用することが示された。また、MUC1が抗癌剤の膜透過を物理的に抑制するという、抗癌剤の耐性機構に関する新規知見を得ることができた。 本研究では薬物の腸管吸収における粘液層の関与およびその分子メカニズムを明らかにするために、粘液層の主要成分であるmucinに着目し、薬物の細胞膜透過性に及ぼす影響およびその分子種差について検討した。その結果、膜結合型mucinであるMUC1は、細胞表面に水層を形成し、脂溶性薬物の経細胞輸送を制御するバリア機能に関与することを明らかにした。本研究成果はこれまで、mucin層全体への考察に留まっていた脂溶性薬物と粘液層との関連性を、分子レベルで精査した新たな知見であり、薬物動態研究における新たな基盤情報を提供し、医薬品開発の効率化に寄与することが期待される。 本研究は、公益財団法人 臨床薬理研究振興財団の平成30年度(第43回)研究奨励金により遂行されたものである。この場を借りて感謝の意を表する。 本研究に関して、筆者らに開示すべきCOIはありません。158

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