臨床薬理の進歩 No.42
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謝  辞利益相反していた。オシメルチニブ服用前薬剤の影響を否定することは出来ないが、症例1においては、急激なオシメルチニブ未変化体および代謝物の血清中濃度の上昇後のGrade 3のALT増加およびAST増加の発現、症例2においては、薬剤変更後に下痢のGradeが上昇したことからオシメルチニブの服用による有害反応である可能性が考えられる。第Ⅱ相試験における臨床データの日本人の81人の有害反応の報告により、何かしらの有害反応が発現したのは80人(98.8%)であり、有害反応のため治療中止となったのは11人(13.6%)、有害反応のため減量したのは8人(9.9%)であった。Grade 3以上の有害反応としては、白血球減少が7人(8.6%)、好中球減少が6人(7.4%)、貧血が4人(4.9%)、ALT増加が3人(3.7%)、下痢が2人(2.5%)、AST増加が2人(2.5%)で発現していた9)。また、日本の医療施設からの報告にて、非小細胞肺がん患者でオシメルチニブを服用していた18人を対象とし、Grade 3以上の有害反応として、ALT増加、AST増加、間質性肺炎が1人(5.5%)ずつと報告されていた10)。 CYP3A4/5を介した酸化および脱アルキル化による代謝がオシメルチニブの主要な消失経路であり、CYP3A4により脱メチル化を受けてAZ5104およびAZ7550となる。オシメルチニブは薬物トランスポーターのABCB1およびABCG2の基質である。過去の報告からEGFR-TKIの薬物動態推移への影響や有害反応に関連する遺伝子多型であるABCB1の1236C>T、3435C>T、2677G>A/T、ABCG2の421C>A、1143T>C、16702G>Aを本研究では解析対象とした11~13)。本結果では、症例数が少ないこともあり、遺伝子多型の解析後、薬物の血清中濃度の変動に関連する遺伝子多型に着目し、血清中濃度と遺伝子多型の関係性を詳細に解析した。1236CC- 3435CCと1236TT-3435TTおよび1236TT- 3435CTに分けて、体重当たりの投与量で補正したオシメルチニブ未変化体および代謝物の血清中濃度を比較したところ、 1236CC-3435CCの症例の方で有意に血清中濃度が高かった(p < 0.001)(図2A、B)。既報のアファチニブの体内動態および遺伝子多型の検討では、1236CC-3435CCの症例がその他の群と比較して、最高血清中濃度および血中濃度-時間曲線下面積(AUC)が有意に高い結果(p < 0.05)が得られ、MDR1遺伝子の活性が低下したことが要因であると考察されている12)。本結果でも同様な理由により、オシメルチニブの血清中濃度が上昇したと考えられる。他の遺伝子多型では、症例数が不十分で影響が確認できなかった。以上より、症例1においては、測定した血清中濃度で最高値が573.4 ng/mL(投与2時間後)であり、既報の血中濃度より高値を示した。その理由として、高齢で他の症例と比較して、低体重(BMI:16.06)および腎機能が中程度に低下していた患者状況や、薬物動態関連遺伝子多型の1236CC-3435CCの影響により定常状態時に血清中濃度が上昇したためと考えられる。 本研究では、実臨床の日本人患者においてオシメルチニブ未変化体および代謝物の血清中濃度推移を明らかにすることで、重度の有害反応は血清中濃度の上昇により発現し、薬物動態関連遺伝子多型が関与する可能性を示した。今後も症例の集積を行うことで、日本人患者において、オシメルチニブ未変化体および代謝物(AZ5104、AZ7550)の血清中濃度またはABCB1およびABCG2の遺伝子多型解析と治療効果、有害反応発現との関連性を考慮した適切なPK/PD/PGxパラメータに基づく最適な投与設計の構築の推進が期待される。 本研究を遂行するに当たり研究助成を頂きました臨床薬理研究振興財団に深謝致します。 本論文の全ての著者は、開示すべき利益相反はない。139

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