臨床薬理の進歩 No.42
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*1 SATO KAZUHIDE *2 ISOBE YOSHITAKA *3 NISHINAGA YUKO *4 TAKAHASHI KAZUOMI *5 TAKI SHUNICHI *6 YASUI HIROTOSHI *7 HASEGAWA YOSHINORI 佐藤 和秀*1 磯部 好孝*2 西永 侑子*3 高橋 一臣*4滝 俊一*5 安井 裕智*6 長谷川 好規*7はじめに要   旨 小細胞肺癌(SCLC)は予後不良の疾病であり治療の選択肢は限られている。Delta-like protein 3(DLL3)は、SCLCに特異的に発現していることが近年に明らかになり治療標的として注目されている。今回我々はすでに開発された抗DLL3モノクローナル抗体であるRovalpituzumabを用い、SCLCを標的とした近赤外光線免疫療法(near infrared photoimmunotherapy: NIR-PIT)の開発を行った。Rovalpituzumabに光感受物質であるIR700を結合しRovalpituzumab-IR700(Rova-IR700)を作製した。DLL3を過剰発現するSCLC細胞とDLL3を発現しない対照細胞を共培養しRova-IR700を添加後、波長700 nm付近の近赤外光に曝露した。DLL3過剰発現細胞は、照射後すみやかな細胞死が誘導されたが、対照細胞は影響を受けなかった。ヌードマウスにDLL3過剰発現のSCLC細胞株を用い皮下異種移植片を作製し、Rova-IR700を静注した。近赤外光を照射したところ、対照群に対しNIR-PIT群では有意な腫瘍の増大抑制効果がみられた。以上から、DLL3を標的としたNIR-PITはSCLCに対する新規治療となりうると考えられた。 名古屋大学大学院医学系研究科病態内科学講座呼吸器内科、名古屋大学高等研究院 S-YLC、名古屋大学高等研究院 最先端イメージング分析センター/医工連携ユニット(907プロジェクト)、名古屋大学未来社会創造機構名古屋大学大学院医学系研究科病態内科学講座呼吸器内科          同   上          同   上          同   上          同   上          同   上が示されたのは実に20年以上ぶりであり、未だSCLCに対する新規治療への要望は多い。 Notch signaling pathwayのリガンドであるDelta-like protein 3 (DLL3)は、近年見出されたSCLCに特異的な治療標的である。近年DLL3を標的とした抗体薬物複合体、Rovalpituzumab-tesirine (Rova-T)が作製され、臨床試験が行われてきた2,3)。Rova-TはDLL3を標的とする初めての薬剤で期待されていたが、2つの第3相試験において否定的なKey words:小細胞肺癌、近赤外光線免疫療法、DLL3、Rovalpituzumab、胸部腫瘍Development of targeting phototherapy for small cell lung cancer; translational new therapy development to overcome thoracic cancers with innovative technology 小細胞肺癌(SCLC)は肺癌の約15%を占める高悪性度の腫瘍である。進展型で発見されることが多く、限られた治療手段しかなく予後が悪い。2018年に進展型SCLCの一次治療において、抗PD-L1抗体Atezolizumabを化学療法に上乗せすることで、既存治療より良好な全生存期間となることが示された1)。一次治療で既存治療を上回る結果1光を用いた新しい小細胞肺癌制圧への挑戦−臨床応用を目指した新規治療法の開発−

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