臨床薬理の進歩 No.42
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42721表1 VP-16脳室内投与PK解析結果の既報との比較患者Fleischhack, et alSirisangtragul, et al.VP-16 投与0.5 mg q24h 5回0.25 mg q12h 10回0.5 mg q24h 5回1 mg q24h 5回 0.5 mg q24h 5回本症Mean ± SD考  察症例数Cmax(μg/mL)9.0±6.04.9±0.911.1±5.020.0±6.42.7平均髄液中濃度 237.98 ng/mL、最高髄液中濃度(Cmax)2.7 μg/mL、髄液中濃度-時間曲線下面積(AUC)141 mg×h/L、最小髄液中濃度(Cmin)>0.05 μg/mLとそれぞれ推定された(図1)。 本研究では、VP-16の髄液中濃度の測定系が存在していなかったことから測定系の確立を行い、日本人小児1例におけるVP-16脳室内投与時の髄液PK解析を行った。海外のPK解析の既報では、Fleischhackら11)が、同様の投与スケジュールで4例にPK解析を実施し、採取ポイントが異なるものの、Cmax 9.0 μg/mL、t1/2 7.4±1.2 h、AUC 21.9 mg×h/Lと本研究結果と同様の報告し、Sirisangtragulら12)も同様の結果を報告している(表1)。本研究により、1例ではあるものの、日本人小児例におけるVP-16脳室内投与が、海外の既報と同様の髄液中薬物動態が示された。 再発髄膜播種に対するVP-16脳室内投与の臨床的効果は、小児及び成人領域の臨床試験で報告されている。成人ではChamberlainらによる単施設第Ⅱ相非ランダム化試験により、極めて予後の厳しい多がん種髄膜播種患者に対して26%に効果を認め、生存中央値は10週間であったと報告されている10)。小児脳腫瘍の髄膜播種を対象とした臨床試験は、全身化学療法との併用治療でありVP-16脳室内投与単独の有効性評価は行われていないが、併用療法としての客観的な有効性が報告されている5)。小児AT/RTにおいては、髄膜播種再発での有効性が示唆されたことから新規発症患者を対象とする臨床試験においてもVP-16脳室内投与の併用が規定され、全9例の少数例ではあるが、予後不良とされる初発AT/RTで5年生存率100%と良好な治療成績を報告している4)。 今回我々がVP-16脳室内投与を行った症例は、髄膜播種再発を来たし、メトトレキサートは合併症のため使用不能、キロサイドの脳室内投与は無効となった厳しい状態であったが、VP-16脳室内投与後に髄液細胞診が陰性化し、2か月にわたる効果持続を認めた。髄膜播種再発であり、現在使用可能な2剤を投与後の再増悪という極めて予後の限られた状態の患者において、QOLを維持した生存期間の2か月延長という臨床的効果を得られた可能性がある。 小児悪性腫瘍の髄腔内播種という希少疾患を対象とするため、今回の報告は症例のVP-16の髄液PK解析にとどまった。しかしながら、本研究において髄液中VP-16の測定系が確立できたため、今後もVP-16髄腔内投与の必要な患者には個別に倫理審査を経た上で治療を実施し、PKデータを収集及び蓄積する予定である。このような概念実証を行った後、まずは極めて予後不良とされる小児髄膜播種再発例に対するVP-16の安全性と有効性を評価する試験として、特定臨床研究、先進医療へと発展させ、臨床現場にVP-16脳室内投与を導入することを目指す。次段階の目標としては、新規診断AT/RTにおけるベストな治療であると考えられるMUV-ATRTレジメンを踏襲した臨床試験を実施し、絶対予後不良であるAT/RTの小児患者の救命率を向上させるとともに、我が国のAT/RTの標準治療を最適化することである。t1/2(h)7.4±1.27.2±0.47.0±0.67.1±0.87.3AUC(mg×h/L)Cmin(μg/mL)文献21.9±10.398.9±18.2132±41.5176±45.2AUC336h=1410.11±0.08>0.08>0.08>0.08>0.0511)12)131131

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