臨床薬理の進歩 No.42
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*1 MATSUI MOTOHIRO *2 MAKIMOTO ATSUSHI *3 IHARA SATOSHI *4 IKAWA KAZURO *5 MORIKAWA NORIFUMI *6 YUZA YUKI 松井 基浩*1  牧本 敦*2 井原 哲*3 猪川 和朗*4 森川 則文*5 湯坐 有希*6はじめに要   旨 脳脊髄液腔は、血液脳関門の影響で全身投与された抗悪性腫瘍剤が十分に到達しないため、髄腔内播種を伴う小児腫瘍の予後は不良である。髄腔内播種巣に対して薬剤を直接到達させる治療法として、髄腔内投与や脳室内投与が開発されたが、我が国において髄腔内投与の保険診療が承認されている薬剤は2剤に限られる。海外では臨床試験として、エトポシド(VP-16)の脳室内投与が小児の髄腔内播種に対して実施され、有効性が報告されている。我が国でのVP-16脳室内投与の妥当性を評価するため、髄液中VP-16の測定系確立を行い、臨床上必要なVP-16の脳室内投与を行った3歳小児例の髄液中VP-16濃度を測定し、薬物動態(PK)解析を実施した。髄液中のVP-16の体内動態は、海外のVP-16脳室内投与時の髄液中PK解析の既報と同等の結果であり、VP-16の細胞毒性を示すと考えられる濃度を達成することが示された。東京都立小児総合医療センター 血液・腫瘍科        同   上東京都立小児総合医療センター 脳神経外科広島大学大学院 臨床薬物治療学        同   上東京都立小児総合医療センター 血液・腫瘍科しかし、現在日本で保険診療として脳室内投与や髄注に使用できる薬剤はシタラビン、メトトレキサートの2剤のみであり、これらの胎児性脳腫瘍への効果は限定的である。 エトポシド(VP-16)は、胎児性脳腫瘍を含む小児悪性腫瘍のキードラッグの1つである。その作用機序は、DNA2本鎖の切断・再結合を行う酵素であるⅡ型トポイソメラーゼに作用して、DNAとⅡ型トポイソメラーゼと切断複合体を形成し、DNA断片の蓄積やアポトーシスを誘導することである3)。薬物動態(PK)は、定常状態における血中濃度とその持続時間によってその分布等が規定される。分布としては、血液脳関門はほとんど通過Key words:エトポシド 脳室内投与 髄液中PK解析 髄腔内播種 小児Intraventricular administration of etoposide in a pediatric patient with meningeal metastasis: pharmacokinetics of etoposide in the cerebrospinal fluid 非定型奇形腫様横紋筋肉腫様腫瘍(AT/RT)等の胎児性脳腫瘍では初発時に約40%が髄腔内播種を認め、再発した時点では2/3以上が髄腔内播種を認める1)。髄腔内播種をきたした脳腫瘍患者の予後は不良で、生存期間中央値は12-15か月である2)。全身投与された抗悪性腫瘍剤は、血液脳関門の影響で十分な髄液中薬物濃度を達成できず、効果は限定的であることが多い。一方、抗がん剤を直接髄腔内へ注入する脳室内投与や髄腔内投与(髄注)は、様々ながん種に対する有効な髄液中薬物濃度を達成でき、髄腔内播種に対する有効性が確保される。127小児髄腔内播種に対するエトポシド脳室内投与確立に向けた髄液中薬物動態解析

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