臨床薬理の進歩 No.42
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結  論謝  辞利益相反した。OATP1B1*1b/*15群、OATP1B1*1a/*15群およびOATP1B1*15/*15群において血漿中CP-I濃度の有意な上昇が認められたことから、血漿中CP-I濃度はOATP1B1の遺伝的背景の影響を反映する精度の高いバイオマーカーであることが示唆された。また、MRP2、OATP2B1およびOATP1B3の遺伝子多型と血漿中CP-I濃度の間に関連が認められなかったことから、OATP1B活性の指標としてのCP-Iの特異性の高さも確認された。これまでの臨床研究で血漿中CP-I濃度の上昇が報告されたのは、リファンピシン11)やシクロスポリンA 12)といったOATP阻害薬の投与時のみであったが、本研究により遺伝的要因としてOATP1B1*15アレルの影響が明らかにされたことで、OATP1B活性の内在性基質としてのCP-Iの有用性が改めて証明された。 OATP1B活性に関連がある生理的因子として、尿毒症物質であるCMPF4)や、炎症性サイトカインであるIL-6やTNF-α5)がin vitroで報告されているが、in vivoでの影響は明らかにされていなかった。最近我々は、末期腎不全患者の血漿中CP-I濃度が、生体腎移植後に有意に低下することを報告しており13)、in vivoにおけるOATP1B活性が腎機能に依存して変化する可能性を見出している。慢性腎不全時にはCMPFをはじめとした種々の尿毒症物質が体内に蓄積するのみだけでなく、IL-6やTNF-αなどの炎症性サイトカインの産生も亢進し、慢性的な炎症が持続した状態になっている。そこで、これらがin vivoでのOATP1B活性の個人差に関連しているという仮説を立て、関節リウマチ患者を対象に、これらの生理的因子と血漿中CP-I濃度の関係を評価した。研究1と同様に、関節リウマチ患者においても血漿中CMPFとCP-I濃度の間に有意な相関が認められ、重回帰分析においてもCMPFが有意な因子として抽出された。このことから、CMPFはin vivoにおいてOATP1B活性を低下させる可能性が考えられ、CMPFの蓄積が認められる患者では、OATP1Bの基質薬の用量調節が必要となる可能性が示唆された。一方で、炎症性サイトカインであるIL-6やTNF-αと血漿中CP-I濃度の間には関連が認められなかった。このことから、IL-6やTNF-αの蓄積は、in vivoでのOATP1B活性に大きな影響を及ぼさないことが示唆された。これまでに報告されているin vitro試験の結果と一致しなかった理由として、本研究の対象患者におけるIL-6とTNF-αの血漿中濃度が、過去のin vitro試験で用いられた添加濃度と比較して低かったことが考えられる。本研究により、関節リウマチ患者においては炎症性サイトカインの影響を考慮する必要性が低いことが明らかになったが、今後は、サイトカインストームを引き起こすような病態時などにおけるCP-I濃度を評価することで、OATP1B活性に及ぼす炎症性サイトカインの影響をより詳細に解明することが期待される。 本研究において、確立したCP-IとCMPFの同時定量法を活用することで、CP-IとOATP1B1遺伝子多型の関係を明らかにし、OATP1B活性の内在性基質としてのCP-Iの高い有用性を示した。さらに、in vivoでのOATP1B活性に関連する生理的要因として尿毒症物質であるCMPFを見出し、CMPFの蓄積が認められる患者では、OATP1B活性の低下が生じている可能性を示した。これらの知見は、患者個々のOATP1B活性の予測と、OATP1Bの基質薬の至適投与の実現に有用であると考えられる。 本研究を遂行するにあたり、研究助成を賜りました公益財団法人臨床薬理研究振興財団に心より感謝申し上げます。得られた知見は文献7、8にて報告させていただきました。深く感謝いたします。 本研究に関し、開示すべき利益相反はない。125

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