臨床薬理の進歩 No.42
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小川 陽一*1  木下 真直*2 島田 眞路*3 川村 龍吉*4はじめに要   旨 Stevens–Johnson syndrome/toxic epidermal necrolysis(SJS/TEN)は広範な表皮壊死を特徴とする致死的な粘膜 皮膚の薬剤性アレルギー反応である。我々はこれまでに、SJS/TEN発症早期の皮膚で好中球がneutrophil extracellular trapsを形成することが端緒となるSJS/TENの新規発症メカニズムを同定した。その新規メカニズムの中心と なる分子としてlipocalin-2(LCN-2)、LL-37がある。これらの分子がSJS/TENの早期診断バイオマーカーとなりうるかを、SJS/TEN患者および類縁疾患患者の血清・尿を用いて解析を行った。尿中LCN-2の上昇はSJS/TENに特異的であり、今後、迅速診断キットの開発によりSJS/TENの早期診断、早期介入、それによる救命率の改善が期待される。山梨大学医学部皮膚科学講座*1 OGAWA YOUICHI     同   上*2 KIINOSHITA MANAO *3 SHIMADA SHINJI     同   上*4 KAWAMURA TATSUYOSHI     同   上臨床的にSJS/TENの発症早期の紅斑からSJS/TENの可能性を考えることは非常に困難であり、迅速診断キットの開発が望まれている。 SJS/TENの発症メカニズムはこれまでCD8陽性T細胞を主とする薬剤特異的cytotoxicな細胞浸潤、およびそれらが産生するメディエーターによって表皮壊死が生じると考えられている4,5)。上記メディエーターにはgranulysin5)、可溶性FasL6,7)、perforin/ granzyme B8)などがあり、発症早期に血清中濃度が上昇することが知られているが、これらの血清中濃度上昇はSJS/TENに特異的ではなく、他の薬疹型でも認められるため、特異度の高い早期診断バイオマーカーとなりえない、という問題点があった。 我々の先行研究によりSJS/TENの新規発症メカニズムが同定された。1)薬剤特異的CD8陽性T細胞は皮膚に浸潤し、LCN-2を産生する。Key words:SJS/TEN、lipocalin-2、LL-37、MPO-DNA、バイオマーカーUrinary lipocalin-2 could be a promising biomarker to predict the onset of Stevens-Johnson syndrome and toxic epidermal necrolysis SJS/TENは医薬品によるⅣ型アレルギーであり、致死率は約25%と高率であり1〜3)、皮膚科専門医として救命できずしばしば悔しい思いをする。この高い致死率は、SJS/TEN発症時の紅斑が軽微であるために、皮膚科開業医・皮膚科標榜開業医を受診し、誤診され、SJS/TEN患者を治療可能な皮膚科専門医を有する高度機能病院への紹介の遅れによる治療介入の遅れに起因する。つまり、SJS/TENの救命率向上は、SJS/TENの診療・治療に精通していない皮膚科医でも皮膚科標榜医でも、あるいは内科医であっても発症早期の非致死的な通常の薬疹と視覚的に鑑別が困難な軽微な紅斑の時点で、どれだけSJS/TENの可能性があるか疑えるか、に依存していると思われる。しかし、101尿中lipocalin-2測定はStevens-Johnson症候群、中毒性表皮壊死症の早期診断バイオマーカーとなりうる

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