臨床薬理の進歩 No.42
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考  察に関連したと考えられる不可逆的な毒性や死亡は認めなかった。 制吐剤の導入やガイドラインの普及によって、CINVのコントロールは改善しているが、より一層の向上が求められている。近年、強い催吐性が認識されたカルボプラチンにおいても、特に遅発期と悪心への対応が必要である。本研究ではカルボプラチンを含む初回化学療法を受ける肺癌患者を対象に、NK1受容体拮抗薬アプレピタント、5-HT3受容体拮抗薬、デキサメタゾンに、多元受容体標的抗精神病薬のオランザピンを追加した4剤制吐療法の有効性と安全性を評価した。4剤制吐療法によって全期間および遅発期の完全奏効割合は90%以上となり、良好なCINVコントロールが可能であった。さらに悪心の発現頻度も著明に減少した。オランザピンの併用は、カルボプラチンを用いた化学療法時の制吐療法として、有用な選択肢となりうると考えられた。 急性期と遅発期CINV発現には異なる発生機序が考えられている2)。急性期CINVは、主に消化管から分泌されるセロトニンが5-HT3受容体を通じて末梢性に生じさせる。中枢性経路では第4脳室最後野や孤束核からサブスタンスPが分泌されNK1受容体を刺激することによってCINVが誘発されるが、急性期のみならず、抗癌剤投与後24時間から数日間に起こる遅発期CINVの発現に関連している2)。遅発期CINVの特徴として、急性期CINVよりも過小評価されやすいこと3)や制吐療法への反応性が低いことが指摘されている16)。日本人患者1910例を対象とした後向きコホート研究では、HECレジメンおよびMECレジメンの遅発期の完全奏効割合はそれぞれ50.6%および58.3%であった17)。急性期CINVの改善に伴い、遅発期CINVのコントロールが重要課題となっており、新たな治療戦略やエビデンスの構築が求められている2)。 オランザピンは2つの第Ⅲ相比較試験においてNK1受容体拮抗薬、5-HT3受容体拮抗薬、デキサメタゾンによる3剤制吐療法への追加効果が示され12,18)、ガイドラインでもHECレジメンに対する制吐予防薬として推奨されている4)。オランザピンの優れた制吐効果をMECまたはカルボプラチンを含むレジメンに適用することが期待されるが、これらのレジメンにおけるオランザピンの有効性を評価した研究は少ない。Navariらはパロノセトロンとデキサメタゾンにオランザピンを追加することの有効性を評価したが11)、この中でMECレジメンを受けた患者の完全奏効割合は、急性期、遅発期、全期間でそれぞれ100%、75%、72%であり、悪心がない患者の割合は、遅発期および全期間ともに78%であった。また5-HT3受容体拮抗薬とデキサメタゾンにオランザピンを追加する別の検討では、MECレジメンを受けた患者の完全奏効割合は、オランザピン群で83.1%、対照群で58.1%であった19)。MECレジメンとして、オキサリプラチンとカルボプラチンが含まれていたが、抗癌剤毎のサブグループ解析は行われていないため、カルボプラチン投与時のオランザピンの有効性は不明である。さらに、これらの研究で用いられた制吐剤は、現時点でのカルボプラチン投与時の制吐療法としては不十分であり、オランザピンの追加効果を正確に評価することは難しい。今回、我々が行った検討は現在の標準制吐療法にオランザピンを併用したため、カルボプラチン投与時のオランザピン追加投与の有効性を正確に示すことが可能となった。 カルボプラチンはHECであるシスプラチンより催吐効果が弱いとされるが、MECレジメンとしては、急性および遅発性嘔吐を高頻度で誘発することが認識され、MECレジメンよりも強化した制吐療法が必要とされている2,8)。我々は以前、カルボプラチンを含む化学療法を受ける患者を対象にアプレピタント、5-HT3受容体拮抗薬、デキサメタゾンによる3剤制吐療法の有効性を検討した。アプレピタントを用いることで良好な急性期のコントロール89

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