臨床薬理の進歩 No.41
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*1 KOSAKA TAKEO *2 HONGO HIROSHI *3 MIKAMI SHUJI *4 OYA MOTOTSUGU 小坂 威雄*1  本郷 周*2 三上 修治*3 大家 基嗣*4はじめに要   旨Key words:前立腺がん、薬剤耐性、ネットワークメディスン、リプログラミング療法、ドラッグリポジショニングReprogramming strategy targeting the gene network of drug resistant prostate cancer 我が国でも欧米諸国のように前立腺がんの罹患率は増加傾向で、男性のがん罹患率第1-3位と想定されている。転移がんや手術・放射線療法後の再発がんに対してはアンドロゲン除去療法(androgen deprivation therapy: ADT)が選択されるが、いずれADTに対して耐性を獲得し、去勢抵抗性前立腺がん(Castration Resistant Prostate Cancer: CRPC)と定義される1)。CRPCに対して2008年にドセタキセルが、2014年には抗がん剤カバジタキセル(CBZ)、より強力な新規アンドロゲンシグナル経路阻害剤としてAR受容体拮抗薬(エンザルタミド)、CYP17阻害剤(アビラテロン)が使用可能になったが、有効性は極めて限定的で 転移性前立腺がんに対しては、アンドロゲン遮断療法(androgen deprivation therapy: ADT)が施行される。ADTは一時的には有効であるが、いずれADTに抵抗性を示す去勢抵抗性前立腺がん(Castration Resistant Prostate Cancer: CRPC)となるが、CRPCは難治性である。難治性打開に向けた新たな視点として、転移性・去勢抵抗性 前立腺がんが内包する遺伝子ネットワークを標的とする、という独創的概念を着想した。既存のヒト臨床上使用 可能な化合物ライブラリーによる遺伝子発現ネットワークの変化率の相関に着目し、バイオインフォマティクスを 融合して再発・転移性前立腺がんのヒト臨床検体における内包する転移性遺伝子ネットワークを再プログラム化・変換が理論的に可能な候補薬を薬剤スクリーニングするという実験系を構築した。新規治療のためのシーズの 導出に継続的に取り組み、in vitro screeningにて、転移を抑制し、かつin vivoで抗腫瘍効果を有するシーズとして既存薬である開発コードDERP351401(以下、DER35)を導出した。慶應義塾大学 医学部 泌尿器科学教室       同   上慶應義塾大学病院 病理診断部慶應義塾大学 医学部 泌尿器科学教室予後不良である2,3)。薬剤ごとに特有の有害事象も多く、薬価は高く医療経済を逼迫する要因にもなっている。さらにはこれら新規薬剤による加療後、特にカバジタキセル耐性の患者が急増しており、これらの患者に対しては有効な薬剤は存在しないunmet medical needsの領域で、有効な新規治療戦略の開発は急務の課題である4,5)。我々は難治性打開に向けた新たな視点として、難治性がんが内包する遺伝子発現ネットワークを標的とするという概念を着想した6)(図1)。 この概念は、山中教授の4つの転写因子の導入による最終分化型の体細胞から多能性幹細胞(induced pluripotent stem cell: iPS細胞)誘導の報告7,8)と、Weinberg博士らの低分化がん、転移がんの遺伝子発現は、多能性幹細胞様のそれと近似するとの81進行性前立腺がんにおける薬剤耐性遺伝子発現ネットワークを標的とした新規リプログラミング療法

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