臨床薬理の進歩 No.41
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考  察0.25 mg/日を設定した。症例数設定 この試験における解析の主な目的は、直線的な用量-反応関係の検証である。以前の研究では、コルヒチン1.0 mg/日群、および不投与群の4週間後のhsCRPが、それぞれ1.78(標準偏差(SD):1.23)mg/dLおよび3.7(SD: 2.3)mg/dLであることを示した。したがって、4週間後のhsCRPは3.7 mg/dL(プラセボ群)、3.22 mg/dL(コルヒチン0.25 mg群)および2.74 mg/dL(コルヒチン0.5 mg群)と推定した。プラセボ群と二つの実薬群との相関をそれぞれ1、0、−1とし、共通の標準偏差を1.23とすると、必要な検出力70%、片側有意水準2.5%に必要な症例数は63と算出された。試験進行状況 試験は現在進行中であり、現在までに40症例が無作為化されており、引き続き登録を継続中である。コルヒチンの薬理作用 古くから痛風の治療薬として用いられてきたコルヒチンは、白血球活性化抑制薬であり、特に好中球の走化性因子(LTB4、IL-8)に対する反応性を著明に低下させることにより痛風の発作を抑制するとされている3)。コルヒチンは薬理作用として多核白血球の遊走阻止作用4)、尿酸塩結晶貪食後のケモタキシスの抑制5)、血管内皮細胞への接着の抑制1)、スーパーオキシド産生の抑制6)などを有しており、近年ではNLRP3インフラマソームの活性化も微小管を介して抑制することが報告されている7,8)。コルヒチンの心血管イベント抑制薬としての可能性 現在、抗炎症薬による心血管イベント抑制を評価しようとする複数の臨床試験が動脈硬化性疾患領域で実施されている。動物実験や、炎症性マーカーを指標とした研究や観察研究で、心血管イベントリスクを低下させる可能性が示唆されている抗炎症薬はいくつか存在する。Varespladibはアポeノックアウトマウスにおいて動脈硬化褪縮がみられたものの9)、臨床試験ではむしろ心血管イベントリスクを上昇させ10)、Darapladibもブタでの実験では動脈硬化の褪縮が認められたものの11)、ヒトでは心血管イベント抑制作用は認められていない12)。 CANTOS試験(Canakinumab Antiinflammatory Thrombosis Outcome Study)では、抗炎症作用を有しリウマチ性疾患治療で承認されているIL-1βを標的にした完全ヒト型抗IL-1βモノクローナル抗体であるカナキヌマブ(canakinumab)で、アテローム血栓性動脈硬化に炎症が寄与するという治療仮説が検証された。この試験の対象は、以前に心筋梗塞を経験し、炎症マーカーであるhsCRP値が2 mg/L以上の炎症性アテローム性動脈硬化症患者とした(n=10,061)。各群年間100人あたりの心血管死、非致死性心筋梗塞および非致死性脳卒中からなる複合エンドポイントは、カナキヌマブ50 mg投与群で4.11%、150 mg投与群で3.86%、300 mg投与群は3.90%で、プラセボ投与群は4.50%であった。150 mg投与群のプラセボ投与群とのHazard Ratio(HR)は0.85(95%信頼区間(95%CI):0.74-0.98)、p値は0.02075となり、あらかじめ設定した閾値の0.02115を下回った。カナキヌマブが、炎症性アテローム性動脈硬化症患者の再発性心血管イベントの発生率を有意に低下させた。カナキヌマブはLDLコレステロール値に影響しなかったことから、炎症性アテローム性動脈硬化症患者の再発性心血管イベントの発生には、炎症が重要な意味を持つことが示された13)。また、少数例での非盲検下での検討ではあるが、現在のところコルヒチンにおいてもランダム化比較試験で心血管イベントの抑制が報告されている14)。 白血球増加は白血球活性化の指標であり、コルヒチンは白血球に集積して細胞骨格の微小管形成抑制を介して活性化を抑制する。そのため、白血球接着や脱顆粒によるミエロペルオキシダーゼの64

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