臨床薬理の進歩 No.41
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試験の目的本試験の試験治療本試験デザイン設定の根拠十分な効果を有する治療法がないのが現状である。 本試験は、65歳以上の高齢者膵癌に対して低用量ゲムシタビン(GEM)+ナブパクリタキセル(nab-PTX)の有効性を検討するものである。2019年10月の時点で必要症例数である60例に達していないが、早期中止基準はクリアし、現在試験継続中である。本稿では、主に本試験の計画に関する内容を報告する。 遠隔転移を有する65歳以上の高齢者膵癌患者に対して、GEM+nab-PTXの忍容性を高めるとともに、標準用量の場合と同等の有効性を示すことを目的に、標準用量と低用量GEM+nab-PTXのランダム化第Ⅱ相試験を企画した。ゲムシタビン(GEM) GEMは代謝拮抗剤に分類される抗癌剤で、細胞内で三リン酸化物に代謝され、DNAの合成を阻害する。また、三リン酸化物濃度は細胞内で長時間維持され、固形癌に対して強い殺細胞作用を示す3~5)。現在GEMは、進行膵癌に対する第1選択の抗癌剤として世界中で広く用いられており、本邦でも、第Ⅰ相試験が実施され、膵癌に対する適応が2001年4月に追加承認されている(奏効割合18.2%)。膵癌の他に、非小細胞肺癌、胆道癌に対して保険適用が承認されている。ナブパクリタキセル(nab-PTX) nab-PTXは2005年に米国で初めて承認され、本邦では2010年には乳癌、2013年には胃癌、非小細胞肺癌、2014年には膵癌に適応が承認されている。膵癌においては、現在42カ国で使用可能となっている。nab-PTXは、ヒト血清アルブミンにパクリタキセルを結合させ、ナノ粒子化した製剤で、クレモホールなどの溶媒を用いることなく生理食塩水に懸濁可能な製剤である。これにより、nab-PTXでは従来のパクリタキセル製剤で問題となっていた溶媒に関連する過敏症などの問題点が改善され、点滴時間の短縮やアルコール過敏症患者への投与が可能になるなどの利便性が得られている。遠隔転移を有する膵癌患者861例を対象に行われた国際共同第Ⅲ相試験(MPACT試験)6)の結果、GEM+nab-PTX併用群の生存期間中央値は8.5カ月、GEM単独群は6.7カ月であり、ハザード比は0.72(95%CI: 0.62~0.83、p<0.001)と両群間に有意な差を認めた。GEM+nab-PTXのGrade 3以上の有害事象として、GEM単独に比べ、好中球減少(38%)、白血球減少(31%)、疲労(17%)、末梢神経障害(17%)、下痢(6%)が高頻度に出現していたが、血小板減少(13%)、貧血(13%)、発熱性好中球減少症(3%)の頻度は同程度であった。国内で行われた第I/II相試験でも、奏効割合58.8%、無増悪生存期間中央値6.5カ月、生存期間中央値13.5カ月と良好な成績が報告されている。また、転移巣だけでなく、原発巣においても腫瘍縮小効果が高いことが報告されている。海外の試験と比較すると、Grade 3以上の有害事象として白血球減少(55.9%)と好中球減少(70.6%)が高頻度にみられたものの、発熱性好中球減少症は5.9%と同頻度であり、忍容性も示されている7)。この結果により、2014年12月に「治癒切除不能な膵癌」に対して薬事承認を取得している。膵癌診療ガイドライン(2013年一部再改訂版)においてGEM+nab-PTXは、遠隔転移を有した膵癌患者に対する有力な治療法の一つと位置づけられ、第1選択での推奨となっている。 本試験では、用量は異なるが、両群ともにGEM+nab-PTX併用療法を実施する。はじめに標準用量GEM+nab-PTX併用療法(対照群)はMPACT試験の結果、標準用量GEM単独投与に対して全生存期間における優越性が示された。対照群に関しては、国内外のガイドラインで推奨されており、標準療法として広く使用されている。そのため、本試験40

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