臨床薬理の進歩 No.41
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*1 KANUKA HIROTAKA *2 HOSHINA TOKIO *3 SAKURAI TATSUYA *4 ISHIWATA KENJI *5 HORI SEIJI 嘉糠 洋陸*1  保科 斉生*2 櫻井 達也*3 石渡 賢治*4 堀 誠治*5はじめに要   旨方  法Key words:寄生虫療法、豚鞭虫、日本、安全性試験、二重盲検ランダム化比較試験Safety and tolerability of medicinal Trichuris suis ova in Japanese healthy volunteers: a randomized double-blind, placebo-controlled study ヒトが霊長類の一種として誕生する遥か以前より、我々の祖先の腸管内には種々の蠕虫・原虫が寄生していたと推測される。それを踏まえると、ヒトの腸管免疫システムは、寄生虫感染を前提に構築され、進化してきた可能性がある。近年、衛生状態の改善と医療の普及により、先進国における寄生虫の感染率は、人類史上最も低くなり、またその低下も急速である。一方、先進国では自己免疫性炎症性疾患の患者数が増加傾向にあり、寄生虫の感染率とは逆相関の関係にある。Strachanは、衛生仮説により衛生環境の改善とアレルギー性疾患増加の関係を唱えている1)。同様に、腸管寄生蠕虫を欠いた状態での腸管免疫は、自己免疫疾患の原因となっている可能性が従前指摘されている。 豚鞭虫卵(TSO:Trichuris suis ova)内服療法は、炎症性腸疾患などの自己免疫疾患の症状を改善する可能性がある治療法である。ただし、既存の研究は主に欧米で実施されており、日本人における同治療法の安全性と認容性は不明であった。本研究では、12例の健康な日本人男性を対象に、二重盲検ランダム化比較試験を実施した。TSO内服用量別に3群に分け(各群には製剤内服者3例と、プラセボ内服者1例が含まれる)、重篤な有害事象の有無を評価した。結果、重篤な有害事象は確認されなかったが、製剤内服者の約30%が下痢などの消化器症状を自覚し、約45%に末梢好酸球数の上昇を認めた。以上の結果から、日本人におけるTSO内服療法の安全性は先行研究と同程度であることが示唆された。東京慈恵会医科大学 実験動物研究施設・熱帯医学講座東京慈恵会医科大学 感染制御科東京慈恵会医科大学 実験動物研究施設東京慈恵会医科大学 熱帯医学講座東京慈恵会医科大学 感染制御科 欧米では衛生仮説をもとに医療用豚鞭虫卵製剤(TSO)が開発され、さまざまな炎症性疾患、アレルギー疾患への効果が検証されてきた2〜4)。炎症性腸疾患(IBD)は、自己免疫性腸炎が主な病態であり、TSOの効果が期待される疾患の1つである。しかしながら、効果についての明確なエビデンスはまだ得られていない。加えて、既報は主に欧米人を対象としており、日本人を含むアジア人における効果と安全性は不明である。我々は、12例の日本人健康成人男性を対象に、TSO内服の安全性を評価すべく臨床試験を実施した。1.研究計画 本試験は、東京慈恵会医科大学および附属病院32医療用豚鞭虫卵製剤の日本人における安全性・認容性について-単施設二重盲検ランダム化比較試験-

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