臨床薬理の進歩 No.41
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方  法iPS細胞作製、心筋分化 患者由来iPS細胞作製に関しては、LQT患者より同意取得後、末梢血単核球細胞よりエピソーマルベクター法にて山中4因子を導入しリプログラミングを行った8)。本研究は、京都大学倫理委員会の承認を受け行われた。本研究では、LQT8-iPS細胞(ヘテロCACNA1C変異(p.A582D)とLQT15-iPS細胞(ヘテロCALM2変異(p.N98S)を用いた。健常人由来コントロールiPS細胞として、253G1及び201B7株を用いた9)。作製したiPS細胞は、免疫染色にて幹細胞マーカーの発現を確認し、テラトーマ形成試験にて3胚葉への分化能を確認した。iPS細胞の心筋分化に関しては、胚様体形成法を用いた10,11)。心筋分化開始後、Day20に、胚様体をcollagenase B(Roche, や精神発達異常・自閉症などの合併を伴い若年で致死性不整脈による突然死を来すTimothy症候群として報告された4)。我々は、6000例に及ぶ遺伝性不整脈疾患のゲノムデータベースを構築し、心電図所見や症状、遺伝型の解析を行っており、LQT患者ゲノムDNAの解析により、心外症状のないLQT8症例を報告し、新しい疾患概念を確立した5〜7)。我々の解析では、LQT8は、全LQTの数%程度を占め、患者数は少なくないと考えられる。遺伝性不整脈疾患の研究に関して、従来より、変異チャネルを非心筋培養細胞に過剰発現させ解析を行う手法が行われているが、心筋細胞特異的蛋白質との相互作用の欠如、過剰発現モデルであるなどの問題があり、“患者の心筋細胞”との間には大きな隔たりがある。また、遺伝子改変マウスモデルに関しては、ヒト心筋細胞とは、心臓イオンチャネルの種類、発現量に大きな違いがあり、病態を再現できない疾患が少なくない。我々は、LQT8の新規治療法開発を目指し、患者に近い“ヒト心筋細胞モデル”である疾患特異的ヒトiPS細胞モデルを用いた治療薬候補化合物の検討を行った。iPS細胞モデルを用いたQT延長症候群に対する新規Ca2+チャネル抑制メカニズムによる治療法開発Indianapolis, IN, USA)、trypsin EDTA(Nacalai Tesque, Kyoto, Japan)を用いて単離し、0.1%ゼラチンコートディッシュに播種し引き続き培養を行った。機能解析には、分化開始後6-8週の心筋を用いた。電気生理学的機能解析、統計解析 分化心筋を酵素処理により単一細胞に単離し、0.1%ゼラチンにてコートしたカバーガラスに張り付けて5-7日後に、ホールセルパッチクランプ法を用いた電気生理学的機能解析を行った。計測に関しては、Axon 700B Multiclamp、Digidata 1440 digitizer hardware(Axon instruments, CA, USA)、pClamp 10.4 software(Molecular Devices, CA, USA)を用い、温度は、25 ± 1 ℃にて実験を行った。活動電位記録に用いた細胞外液、ピペット内液は以下の通りである。細胞外液:(in mM)140 NaCl, 5.4 KCl, 1 MgCl2, 10 glucose, 1.8 CaCl2, 10 HEPES (pH 7.4 with NaOH at 25 ℃)、ピペット内液:(in mM): 80 K-Aspartate, 50 KCl, 1 MgCl2, 10 HEPES, 3 Mg-ATP, 10 EGTA(pH 7.2 with KOH at 25 ℃)。また、L型カルシムウムチャネルにおけるカルシウム電流記録、バリウム電流記録に用いた細胞外液、ピペット内液は以下の通りである。細胞外液:(in mM)140 TEACl, 5.4 KCl, 1.8 CaCl2(or BaCl2)、14-aminopyridine, 10 glucose, 5 HEPES(pH 7.4 with CsOH at 25 ℃)、ピペット内液:(in mM)140 TEACl, 5.4 KCl, 1.8 CaCl2(またはBaCl2)、14-aminopyridine, 10 glucose, 5 HEPES (pH 7.4 with CsOH at 25 ℃)、ピペット内液:(in mM)120 CsCl, 20 TEACl, 3 MgCl2, 5 HEPES, 5 Mg-ATP, 10 EGTA(pH 7.2 with CsOH at 25 ℃)。ガラス電極はプラー(PP830, Narishige, Tokyo, Japan)にて作製し、抵抗が2-3 MΩのものを用いた。試薬に関して、l-cis-Diltiazemは、Abcam(Cambridge, UK)、d-cis-Diltiazemは、Sigma-Aldrich(St Louis, MO, USA)より購入し実験に用いた。統計解析は、Student’s t-test、paired t-testを適宜用い、p < 0.05を有意とした。25

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