臨床薬理の進歩 No.41
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*1 IOHARA KOICHIRO *2 NAKASHIMA MISAKO 国立長寿医療研究センター 口腔疾患研究部庵原 耕一郎*1  中島 美砂子*2はじめに要   旨Key words:難治性根尖性歯周炎治療、ドキシサイクリン、ナノバブル、根管洗浄Disinfection by nanobubbles with anti-bacterial agents in an intractable periapical disease model 超高齢化社会において歯の健康・機能維持は健康長寿を達成する上で必須である1)。深い虫歯で神経を除去(抜髄)すると20年ぐらいまでに再感染して根の下に膿が溜まる根尖性歯周炎(感染根管)となり(年間歯科受診のべ人数の15〜20%、年間1,000万件)、さらにその約25%は難治性に陥り、抜歯・破折の一途を辿る。よって、私共は、「抜髄しても根尖性歯周炎に至らないようにする歯髄再生治療法」を開発し2〜4)、すでに臨床研究5症例で安全性を確認し、有効性を示唆した5)。 一方、難治性根尖性歯周炎の病因は通常根管貼薬に用いる水酸化カルシウム製剤に対して耐性のE. faecalisなどの菌が象牙細管や複雑な細孔をもつ歯根の奥深くに侵入し、バイオフィルムを形成するためと推定されている6)。したがって、難治性根尖性歯周炎治療においては、根管の洗浄・貼薬、 超高齢化社会において歯の健康・機能維持は健康長寿を達成する上で必須である。以前、我々は軽度の根尖性 歯周炎にドキシサイクリン含有ナノバブルが根管の無菌化に効果があることを明らかにした。今回、抜歯の原因と なりうる難治性根尖性歯周炎にドキシサイクリン含有ナノバブルが同様に有効であるかを検討した。この結果、ドキシサイクリン含有ナノバブルはin vitroのう蝕モデルにおいては有効であったが、イヌにおける難治性根尖性歯周炎モデルにおいては効果がなかった。この原因を究明した所、ナノバブルの浸透効果やスメア層除去効果が、ドキシサイクリンと混合すると失われていたこと、ナノバブルの濃度とマイナスのゼータ電位が大きく消失していることが明らかになり、ナノバブルが消失していると考えられた。これより、ナノバブルを難治性根尖性歯周炎治療に応用するには、ナノバブルの効果を減弱しない薬剤を選択することが望ましいと考えられた。国立長寿医療研究センター 幹細胞再生医療研究部および根尖歯周組織の化学的・物理的刺激の除去法の開発が重要である。私共は歯科用ナノバブル発生装置を用いて、ナノバブルがスメア層(根管拡大清掃時に生じる細菌が混じった切削片が象牙質の象牙細管に詰まったもの)を除去できること、 人工的にアパタイト表面に作製したE. faecalisのバイオフィルムを除去できることを明らかにした7)。また、in vitro実験によりナノバブルが抜去歯の象牙細管内1 mm以上深部へ薬剤を浸透させること、E. faecalisを人工的に感染させた根管に対して、ナノバブル・ドキシサイクリン根管洗浄・貼薬により完全除菌できることを明らかにした(未発表データ)。さらに、イヌを用いた軽度の根尖性歯周炎モデルにおいて、ドキシサイクリン含有ナノバブルで根管を洗浄後、さらに同薬剤で根管貼薬を行い、1週間ごと数回繰り返すことにより、根管内細菌は検出限界以下となることを明かにした8)。よって本研究においては、臨床研究をめざしてドキシサイクリン8ナノバブル薬剤導入法を用いた難治性根尖性歯周炎治療

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