臨床薬理の進歩 No.41
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CN図1 メガリンを「入り口」としたDKDの進展機序腎障害性蛋白質など用いたアルブミン/クレアチニン比(albumin creatinine ratio, ACR)の測定が最も簡便な方法とされ、それらに基づいて病期分類が行われている。しかし、それらがDKDの病勢を正確に反映し、治療の効果を判定する上で必要にして十分な検査であるとはいえない。またアルブミン尿はDKDだけでなく、高血圧やメタボリックシンドロームなどの他の疾患でも認められる。そこでより早期のDKDを発見したり、進行を予知したりするバイオマーカーの検索が進められている。 近位尿細管腔側膜に発現するメガリンは、主にclathrin-coated pitに存在し、タンパク質や腎毒性薬物を含む様々な糸球体濾過物質の再吸収・代謝に関わっている1)。近位尿細管細胞はエンドサイトーシスが極めてさかんであり、メガリンはその機能を担う中心的な分子である。我々は、肥満・メタボリックシンドローム型糖尿病モデルである高脂肪食負荷マウスにおいて、腎障害発症機序にメガリンが中心的な役割を担うことを見出した2)(図1)。すなわち本モデルにおいては、メガリンが腎障害性物質(脂肪酸高含有タンパク質など)を取り込む「入り口」分子として機能し、それによって近位尿細管細胞の(オート)リソソームの障害をきたすことが引き金になって形質変化をきたし、さらに尿細管・間質障害から糸球体障害へ逆行性に病態が進展する。一方で我々の研究により、メガリンの持つ、DKDの病態にリンクした新規バイオマーカーとしての可能性も明らかになってきた。 我々はメガリンが尿中に排泄される際に、細胞外ドメイン型と全長型の2つの形式で排泄されることを明らかにした3)(図2)。それぞれ、アミノ末端側、カルボキシル末端側を認識するモノクローナル抗体によるELISAによって測定されることから、A-メガリン、C-メガリンと称した3)。A-メガリンは主に可溶性尿画分に、C-メガリンは主に不溶性尿画分に検出される。そして、横断的解析から尿中C-メガリン/Cr比はDKDの正常アルブミン尿期から上昇し、その進行に従って増加することが明らかになった3)。他の尿中バイオマーカーとの検討も行ったところ、尿中C-メガリン/Cr比は、ACRやN-アセチルβグルコサミニダーゼ(NAG)と正の相関を認め、アルブミン尿だけでなく、尿細管障害マーカーとの関連を認めたが、それらとは異なり、唯一eGFRとの相関を認めた3)。また尿中A-メガリン/Cr比も健常人と比較して2型糖尿病患者では排泄が増加することを報告している3)。 尿中C-メガリンの排泄に関して、重要な役割を持つのが尿中におけるエクソソームなどの細胞外小胞(extracellular vesicles, EVs)である。バイオマーカーに関する他の研究の中でもEVsに含まれるタンパク質や、micro RNA(miRNA)は新規バイオマーカーの候補として検討されている4,5)。我々はこのEVs、その中でも特にエクソソームに着目し、SGLT2阻害薬による腎保護作用機序と尿中コンパニオン診断法の検討図2 新規尿中バイオマーカーとしてのメガリン149

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