臨床薬理の進歩 No.41
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結  語謝  辞きており、PCSK9の産生亢進を示すPCSK9 gain-of-functionが遺伝子変異の1つとして報告されている13)。この遺伝子変異を有する症例では、PCSK9の産生が増加し高コレステロール血症を引き起こすものと考えられている。本研究では遺伝子検査は実施していないが、上記のような遺伝子変異を有する症例において、mature PCSK9が増加し、そのためにスタチンの有効性が減弱している可能性が考えられる。 Mature型ならびにfurin-cleaved型PCSK9の産生制御において、PCSK familyであるFurinが関与している。これまでの研究において、脂質異常症に寄与する遺伝子変異を有する症例において、Furinの活性が低下あるいは失活していることが報告されている14)。Furinの異常の存在も、mature PCSK9値を上昇させ、スタチンに対する反応性低下を引き起こすものと考えられる。Mature PCSK9測定に基づく脂質介入アプローチの選択 Mature PCSK9を測定することにより、脂質低下薬剤の選択において有用となる可能性が考えられる。Mature PCSK9が低値な症例は、スタチンが有効でありガイドラインに則った脂質介入薬剤の導入が適切と考えられる。一方、mature PCSK9が高い症例では、スタチン以外の薬剤選択が適していると思われる。近年の大規模臨床研究から、エゼチミブの有効性が報告されており15)、mature PCSK9高値症例は、スタチンとは作用機序の異なるエゼチミブの導入を先行して行うべき症例群と思われる。更なる強力なLDL-C低下薬剤としてPCSK9阻害剤が臨床導入されており、スタチンやエゼチミブ等の経口薬剤ではLDL-C値の管理が困難な症例やスタチン不耐症の場合に適応とされている8,9,16,17)。本研究結果から、mature PCSK9高値症例では、高い心血管リスクを有する場合に早期からのPCSK9阻害剤導入も選択しうるものと考えられる。このようにmature PCSK9の測定が、PCSK9阻害剤の適切な導入につながるものと思われ、医療経済的にも重要と考えられる。本研究におけるlimitation 本研究では、脂質異常症に寄与する遺伝子検査を施行していない。このため、家族性高コレステロール血症症例がどの程度含まれているかは不明である。PCSK9の代謝に寄与するfurinの測定は行なっておらず、mature PCSK9高値のメカニズムとして更なる検証が必要である。脂質低下薬剤種類・用量は担当医師が決定しており、薬剤開始前の脂質値が種類・用量の選択に影響を及ぼした可能性が存在する。 本研究結果から、血液中のmature PCSK9はスタチンによるLDL-C低下率に関連していることが明らかとなった。Mature PCSK9の測定は、個々の症例における適切な脂質低下療法の選択において有用であることが示唆された。 本研究の遂行にあたり、研究費の助成を頂きました公益財団法人臨床薬理研究振興財団に深く感謝いたします。146

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