臨床薬理の進歩 No.41
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2NON図1 ベダキリン(Bedaquiline)構造式方法と結果BrHOな天然由来の抗菌活性物質に晒されているため、多くの抗菌薬に対して生来自然耐性を有することが知られている。このことから肺NTM症治療に使用できる抗菌薬は非常に限られているのが現状である。 CAMは放線菌(Streptomyces erythraeus)由来の天然物であるエリスロマイシンから半合成された14員環のマクロライド系抗菌薬であり、リボソーム50Sサブユニットの23S rRNA domain V領域に結合することにより蛋白合成を阻害する4)。M. aviumやM. intracellulareでは、Domain V領域の特定部位に一塩基置換が入ることにより、CAMが結合できなくなることにより耐性化が生じることが知られている5)。肺MAC症の治療は数ヶ月から1年以上の長期間に及ぶため治療経過途中でしばしばCAM耐性菌が出現するが、森本らは、CAM耐性肺NTM症の予後が多剤耐性結核(Multi drug resistant TB; MDR-TB)患者と同等に悪いことを報告しており、CAM一剤の耐性化で肺MAC症の根治は極めて困難となる6)。このことから、CAM耐性肺NTM治療には新たなドラッグディスカバリーが期待されているとともに、新規に開発された抗結核薬のNTM症への応用のための知見収集が急がれている。 2012年にMDR-TBに対し有効な抗菌薬であるベダキリン(BDQ)が米国で承認され、使用が開始された(図1: Bedaquiline構造式)。BDQはこれまでの抗結核薬には無かった新しい作用機序のジアリルキノリン系ATP合成酵素活性阻害抗菌薬であり、増殖期・休眠期中の結核菌(M. tuberculosis)に対しても効果を発揮することが報告されている7)。 NTMに関するこれまでの先行研究では、BDQがM. avium / intracellulareに対してin vitroの最小発育阻止濃度測定では高い抗菌活性(MIC90≦0.008 μg/mL)を有することが示されている8)。Ruthらは2019年に、CAM感性M. avium臨床分離株に対してBDQとアミカシン、クロファジミン、CAM、エタンブトールとの併用効果についてチェッカーボードMICを用いて検証しており、それらの薬剤の中では相乗効果は認められなかったことを示しているが、BDQと他剤との併用効果については、このRuthらの報告のみであり更なる知見の蓄積が必要である9)。 本研究では、今後結核よりも大きな問題となり得る肺MAC症原因菌であるM. aviumに対して、肺NTM症に使用され得る既存薬との相乗効果を評価することにより、BDQをキードラッグとした肺MAC治療の併用療法確立に向けた検討を実施した。また、M. aviumを含めた抗酸菌は細胞内寄生性細菌であり、in vitroの感受性解析のみでは、薬効の評価を誤る可能性があることから、マクロファージ細胞系内における多剤併用効果評価系を確立し、細胞内での効果評価を実施した。チェッカーボードMICによる効果評価 M. avium臨床分離株を使用して、BDQを含めた2剤併用時の有効性をチェッカーボード法を用いたMICをin vitroで測定することにより評価した。CAM耐性株に対するBDQを使用した併用加療の実施を想定することから、チェッカーボード法によるin vitro MICの評価にはCAM耐性株を選び出して供試した。臨床分離株の中から、CAMに対するMICが64 μg/mL以上のM. avium 9株を選定し、更にはマクロライドの耐性化因子として知られている23S rRNA(rrl)遺伝子Domain V上の点突然

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