臨床薬理の進歩 No.41
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深野 華子*1 奥田 マキ*2 柏木 彩*3 星野 仁彦*4はじめに要   旨Key words:ベダキリン、肺MAC症、多剤併用療法、in vitroチェッカーボードMIC、ex vivo併用効果評価Development of combination regimen with bedaquiline for pulmonary Mycobacterium avium complex diseases 非結核性抗酸菌(Non-tuberculous Mycobacteria:以下NTM)は、結核菌に代表されるMycobacterium tuberculosis complexと、ハンセン病原因菌であるMycobacterium leprae、Mycobacterium lepromatosisを除いた全ての抗酸菌を指し、その菌種は200種を超えている1)。これらNTMは土壌や水中などの環境中に普遍的に存在していることが知られており、結核やハンセン病のように人から人への伝播は起こらないとされているが、その感染経路は未だ明確にされていない2)。 人から人への伝播は起こらないとされているに ベダキリンは2012年に米国で新たに承認された抗結核薬である。これまでの抗結核薬とは全く異なる作用機序 であるATP合成酵素活性の阻害に働くため、多剤耐性結核菌に対しても高い抗菌効果を発揮する。近年の調査研究により、非結核性抗酸菌(NTM)の仲間であるMycobacterium avium complexを原因とする肺MAC症の患者数が結核の患者数を上回っており、そのうちクラリスロマイシン耐性肺MAC症患者の予後が多剤耐性結核患者の予後と同様に悪いことが明らかとなった。本研究では、クラリスロマイシン耐性肺MAC症に対する新たな治療戦略としてベダキリンの有効性を評価し、最適な併用療法確立に向けての検討を目的とした。In vitroでのチェッカーボードMICの測定による併用効果評価に基づいて、マクロファージ分化THP-1細胞を使用したex vivo感染試験による細胞内での併用効果を検討した結果、アミカシンとクロファジミンが、ベダキリンとの併用時にそれぞれの薬剤の単剤使用時よりも細胞内のMycobacterium aviumを減少させることを新たに見出した。Ex vivoの評価系を用いた併用療法の検討事例はこれまでになく、これらの知見は今後クラリスロマイシン耐性肺MAC症の コントロールに大きく貢献することが期待される。国立感染症研究所ハンセン病研究センター*1 FUKANO HANAKO       同   上*2 OKUDA MAKI *3 KASHIWAGI SAYAKA       同   上*4 HOSHINO YOSHIHIKO       同   上も拘わらず、近年、日本国内における肺NTM症の患者数は140,000人を超えており、2014年における1年あたりの新規患者数は結核の患者数より格段に多い19,000人に並ぶ新興感染症である3)。日本国内の肺NTM症患者のうち、およそ9割がMycobacterium avium(M. avium)あるいはMycobacterium intracellulare(M. intracellulare)を原因とする肺Mycobacterium avium complex症(以下、肺MAC症)である。 肺MAC症治療にはマクロライド系抗菌薬であるクラリスロマイシン(CAM)をキードラッグとした多剤併用療法が実施される。M. aviumやM. intracellulareを含むNTMは自然環境中で日々様々1ベダキリンを含む肺MAC症多剤併用療法確立への検討

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