臨床薬理の進歩 No.41
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コルチコイドの投与は、VRCZの代謝をわずかに増加させるが、VRCZとVNOの濃度は変化しない10)。この研究では11名の患者が糖質コルチコイド療法を受けていたが、E158K/E308G対立遺伝子を持っていた患者はいなかった。対照的に、FMO3 V257M遺伝子多型は、VRCZの血漿濃度を変化させなかった。VRCZの血中濃度と代謝比の逆数値との間の各FMO3遺伝子型グループの回帰直線は、原点付近から強い正の相関を示した。ただし、飽和指数はFMO3遺伝子多型と相関しなかった。FMO3 E158K/E308G遺伝子多型は、in vitroで基質への親和性を変化させることが報告されている11)。これらの結果は、FMO3 E158K/E308G遺伝子多型がVRCZの血中濃度を規定する主要な要因であることを示唆する。 これまで、FMO3 E158K/E308G遺伝子多型が及ぼすVRCZ血中動態への影響に関する報告はない。本研究に登録された患者の29%はFMO3 E158K/E308G遺伝子多型であった。FMO3は主に成人の肝臓に分布しており、種々の薬物のNオキシド化またはSオキシド化に関与している。FMO3 M66IやR492W遺伝子多型は、完全な酵素不活性化を引き起こし、トリメチルアミン尿症の要因となる11)。しかし、それらの遺伝的頻度は非常に低い。FMO3 E158K/E308G遺伝子多型の頻度は人種によって異なり、その頻度はアジア人よりもアフリカ系アメリカ人の方が高い12)。そのためVRCZの血中動態に対するFMO3 E158K/E308Gの臨床的影響は、人種によって異なる可能性が考えられる。 本研究でVNO濃度はCYP2C19 PM群よりもEM群で有意に高かったが、代謝比はわずかに低かった。一方、VRCZ濃度の中央値は以前の報告と比較してCYP2C19 PM群の方が低かった7)。その理由としては、CYP2C19 PM群では10名中4名がFMO3 E158K/E308G遺伝子多型を保有しており、VRCZ濃度の低下を示したことが考えられた。CYP2C19 EMの頻度は、アジア人(30-40%)よりも白人(70-75%)の方が高い13)。さらに、日本人易感染性患者におけるVRCZのNオキシド化代謝経路に着目した薬物動態・薬力学的評価では超高速代謝群として分類されるCYP2C19*17の対立遺伝子を保有する頻度は1%であり、白人では25%である14)。上記のことから、人種間のCYP2C19表現型の頻度の違いは、VRCZの薬物動態の変動に対するFMO3遺伝子多型の寄与に影響する可能性が考えられた。 飽和指数はCYP2C19表現型間で有意差を示したが、FMO3遺伝子多型間では有意差を示さなかった。今回、飽和指数はVRCZのNオキシド化代謝能力の指標として定義され、Michaelis-Menten方程式を変換し、1/最大反応速度(Vmax)・time(t)で表される。本結果はCYP2C19表現型ではなく、FMO3遺伝子多型がVRCZの代謝能力の変動と関連していることを示唆した。また、 FMO3 E158K/E308G遺伝子多型の患者は野生型よりもKm値が小さくVRCZに対する親和性が高いことが示された。これらの結果から、FMO3 E158K/E308G遺伝子多型がVRCZの血中濃度を決定する主要な要因であることが推察された。 VRCZの有害反応について、Liらのメタ解析では、CYP2C19表現型、肝毒性、神経毒性の間に関連性はないと報告された15)。一方でVRCZの有害反応の発生率に対するFMO3遺伝子型の影響に関する報告はほとんどない。本研究では、FMO3遺伝子多型がVRCZの血中濃度の変化を通じて有害反応に影響する可能性を示した。 本研究でVRCZの血中濃度は肝毒性の発生率と相関していなかったが、VNO濃度は総ビリルビンの血清レベルと正の相関を示していた。本結果の臨床的意義については今後検討の必要がある。一方で、VNO濃度は直接有害反応と関連している結果は得られなかった。これは、紫外線の影響を受け皮膚障害を惹起すると考えられるVNOが、本研究では入院患者が対象となっていたことにより、十分に評価できていなかった可能性が考えられた。また、今回のその他の制限として、対象が日本人患者のみであり免疫不全患者に限定されていること、VRCZの薬物動態に関与し得る炎症および薬物間相互作用のある患者を除外していることが挙げら113

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