臨床薬理の進歩 No.41
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謝  辞プロパフェノンの作用部位と関連するSCN5Aプロモーターハプロタイプおよび主代謝酵素であるCYP2D6の遺伝子多型について調査した。SCN5AプロモーターHap Bは抗不整脈作用に影響し、その保有患者ではプロパフェノンの有効率が高かった。また、CYP2D6遺伝子多型は血中プロパフェノン濃度に影響し、プロパフェノンの抗不整脈効果と関連するピーク血中濃度が酵素活性を欠損する遺伝子を保有している患者において上昇していた。このような薬理遺伝学的情報は、プロパフェノンのTDMを効果的に実施するために有用と考えられる。 プロパフェノンのTDMにおける最適な採血時間はこれまで明らかでなかったが、プロパフェノンの効果は血中プロパフェノン濃度のトラフ値ではなくピーク値と関連することが明らかになった。ROC解析から、プロパフェノンのピーク血中濃度は300 ng/mL以上の濃度を目標とするべきと考えられた。また、有害反応防止の観点からは、過去の報告2)と同様に1000 ng/mLを超えないよう投与量の調節を行う必要があることも確認された。一方、プロパフェノンと同等の抗不整脈作用を有する活性代謝物の5-OHPは、その血中濃度と抗不整脈効果との関連性が乏しく、薬効評価のために5-OHPをモニタリングする必要性は低いと推察された。 Naチャネル遮断薬投与による心筋刺激伝導速度の遅延はSCN5Aプロモーターハプロタイプの影響を受け、Hap B保有者では野生型の患者と比べてその伝導遅延が大きいことが明らかになっている5)。フレカイニドではHap B保有者における有効率が野生型と比べて高いことが明らかになっているが6)、プロパフェノンにおいても同様であることを確認した。よって、日本人を含めたアジア人で特有なSCN5Aプロモーターハプロタイプは、Naチャネル遮断薬のTDMにおいて重要な薬理遺伝学的情報であると考えられる。血中フレカイニド濃度の有効治療域は、Hap B保有者において低濃度側にシフトしていたことが報告されている6)。本研究ではHap B保有者に効果が不十分な患者が少なく、Hap B保有者の有効治療域について十分に検討できなかったため、患者数を増やしてさらに検討する必要がある。 CYP2D6遺伝子多型はプロパフェノンの薬物動態に影響することが知られており1,2)、酵素活性が遺伝的に欠損している患者は血中プロパフェノン濃度が上昇するため、野生型と比べて心室性不整脈に対する抗不整脈効果や副作用発現率が高いことが報告されている10,11)。また、中国人の心室性不整脈患者において、酵素活性が遺伝的に低下しているIMsは、単回投与後の血中プロパフェノン濃度が野生型と比べて高いことが報告されている12)。本研究では、CYP2D6のPMアレルを保有する患者において、繰り返し投与後の定常状態ピーク血中濃度がEMsと比べて高いことを確認した。母集団薬物動態解析の結果からも、プロパフェノンのCL/FがPMアレルの保有により低下することが明らかになった。一方、IMアレルはプロパフェノンのCL/Fに影響する因子ではなかった。他の抗不整脈薬では日本人でアレル頻度の高いIMアレルの保有がCL/Fに影響することが報告されているが7)、プロパフェノンではIMアレル保有の影響が小さいと考えられた。また、CL/Fは1回投与量の増加により低下するため、適正な投与量を設定するためには血中濃度に基づく投与量設定が有用と考えられる。 本研究からNaチャネル遮断薬の作用部位と関連するSCN5Aプロモーターハプロタイプおよび薬物代謝酵素CYP2D6の遺伝子多型が、フレカイニドと同様に4)プロパフェノンのTDMにおいて重要な薬理遺伝学的情報であることが確認された。しかし、CYP2D6遺伝子多型は薬物毎に薬物動態への影響が異なる可能性があり、TDMにおけるその遺伝子多型情報の臨床的意義は抗不整脈薬毎に検討する必要があると考えられる。 本研究を遂行するにあたり、研究助成を賜りました公益財団法人臨床薬理研究振興財団に心より感謝申し上げます。106

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