臨床薬理の進歩 No.41
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対象と方法ている5)。そのうちアジア人に特有なハプロタイプB(Hap B, 日本人のアレル頻度:24%)を有する患者では、Naチャネルの発現量が低下し、Naチャネル遮断薬の作用(心電図におけるPR延長やQRS増大)が野生型の患者より強く現れることが指摘されている。Hap Bを有する患者ではクラスⅠc群のフレカイニドの抗不整脈効果が高く、有効治療域も低濃度側にシフトしている可能性が示されている4,6)。また、CYP2D6遺伝子多型については、CYP2D6を主代謝酵素とするプロパフェノンをはじめとした多くの抗不整脈薬の薬物動態に影響することが報告されている2)。フレカイニドについては、CYP2D6遺伝子変異を有する高齢者においてTDMによる個別適正化の必要性が高いことが示されている4,7)。上記のような抗不整脈薬の作用部位や薬物動態に影響する薬理遺伝学的要因に関する情報は、フレカイニドと同様にプロパフェノンを含めた他のクラスⅠ群抗不整脈においてもTDMを効果的に実施するために有用と考えられるが、TDMにおける臨床的意義は十分に検討されていない4)。そこで本研究では、プロパフェノンのTDMにおける薬理遺伝学的情報の有用性を明らかにするために、TDM実施のための基礎的情報として適切な採血時間や活性代謝物測定の必要性について検討した上で、SCN5AプロモーターハプロタイプおよびCYP2D6遺伝子多型の臨床的意義について検討した。対象 筑波大学附属病院において頻脈性不整脈の治療のためにプロパフェノンを服用している66名の外来患者(男性51名/女性15名、年齢61±11歳、体重66±11kg)を対象とした。そのうち、上室性不整脈の患者は62名(発作性心房細動51名、持続性心房細動6名、心房頻拍4名、WPW症候群1名)、心室性不整脈の患者は4名(心室頻拍3名、心室性期外収縮1名)であった。本研究は筑波大学医学医療系医の倫理委員会の承認を得て行った。血中薬物濃度および薬効の評価 定常状態におけるプロパフェノンおよび5-OHPの血中濃度をHPLCで測定した8)。プロパフェノンの効果は、自覚症状、12誘導心電図ならびにホルター心電図によって判定した。血中濃度と効果の関連は、過去の報告を参考に最終投与後1.5-6時間値をピーク値、投与直前の10-24時間値をトラフ値として検討した3)。プロパフェノンが有効な患者と効果不十分な患者を識別する血中プロパフェノン濃度のカットオフ値は、上室性不整脈の患者のうち55名を対象としてROC(Receiver Operating Characteristic)解析を用いて検討した。遺伝子多型解析 SCN5Aのプロモーターハプロタイプは、6つの多型のうち-1418T>Cと-1062T>CをPCR-RFLP法で解析し、Hap A(TT)、Hap B(CC)およびHap C(CT)を判定した5)。CYP2D6遺伝子多型は、*1(wild type)、*2(C2938T)、*5(CYP2D6 gene deletion)、*10(C188T)、*14(C188T, G1846A)、*21(2661 C insert)および*36(CYP2D6 gene conversion to CYP2D7P in exon 9)をPCR-RFLP法、allele-specific PCR法またはstep-down PCR法で解析してCYP2D6遺伝子型を判定した8)。CYP2D6遺伝子型は、*1および*2をextensive metabolizer(EM)アレル、*10をintermediate metabolizer(IM)アレル、*5、*14、*21および*36をpoor metabolizer(PM)アレルとして、EM/EM、EM/IM、EM/PM、IM/IM、IM/PMおよびPM/PMに分類した。母集団薬物動態解析 母集団薬物動態解析プログラムにはPhoenix NLME(Version 1.1)を用いて、定常状態における血中プロパフェノン濃度(101測定点)を1次吸収過程のある1-コンパートメントモデルで解析した。分布容積(Vd/F)、吸収速度定数(ka)および吸収ラグタイムは、過去の報告に基づいてそれぞれ 3.6 L/kg、2.7 h-1および0.42 hに固定した1,9)。経口クリアランス(CL/F)に影響をおよぼす共変量と102

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