夫、安原 一)。臨床薬理学の教育で私たちが大切にしてきたのは、(1)知識、(2)技能、(3)態度の三つのレベルで学習することです。講義は幅広い知識を得るために必須ですが、技能と態度は講義だけでは身につけることができません。そのため、参加体験型の演習が必須になります。翌年(1998年)の春から新GCPが完全実施になり、文書同意が必須となるというタイミングで開催された臨床薬理学集中講座であったため、演習としてはロールプレイ法を使った参加体験型学習「治験のインフォームド・コンセント」を取り入れて、私がこれを担当しました。本プログラムは、大分医科大学(現:大分大学医学部)の臨床薬理学講座で、高学年の医学生を対象にした臨床実習教育の場で誕生したものです。参加体験型学習「ロールプレイ法により学ぶ治験のインフォームド・コンセント」として、1995年11月にNHKテレビの「クローズアップ現代」で国谷裕子さんから紹介されて、広く全国に普及するようになった学習法です。わが国の医療の新しい動向としての「文書同意」の実施法およびその学習法として注目され、その後全国各地の医学部・医科大学でも紹介し、1998年から始まった多くのCRCの研修会で定番として育っていったプログラムです。新GCPとして法制化された頃のわが国内の実情としては、医薬品の治験の実施に際して欧米並みに文書同意を必須とするという改革には、医療の現場で戸惑いの声が絶えませんでした。欧米は古くから文書同意が普及していた文化を有する社会です。一方、わが国は、昔から以心伝心の文化が特徴で、いちいち言葉に表さなくても分かり合える社会だったので、文書にするという行為はかえって人間関係をギスギスさせる感じがあったのです。しかし、医薬品の治験に関しては、まだ有効性と安全性が確認されていない段階にある臨床試験であることを被験者となる候補者の方に十分に説明して、理解してもらったうえで、被験者として自分の意思で参加していただくための同意を得ることは、本来必須と考えられることなので、欧米並みに説明文書を使って説明を行い、文書で同意をもらうことになったのです。とはいえ、医療の現場では、具体的にどのようにして患者に説明をし、どのようにして同意書に署名をもらうのかについては、トレーニングが全く行われていなかったのです。治験のインフォームド・コンセントは、医療者と患者の間に良きコミュニケーションがあってはじめて成り立つものです。講義を受けているだけでは、インフォームド・コンセントに関する歴史や意義など、理論については理解できるようになっても、実際に自分ができるようにはなりません。体験学習が必須なのです。そこで、受講者同士で治験チームと患者チームを作り、可能な場合には、受講者が両方の立場を体験できるように配慮したプログラムを作成しました。受講者を治験チームと患者チームに分け、患者チームには与えられた条件に合致する模擬患者とその家族を自分たちで作成し、治験チームには、プラセボ対照群との二重盲検ランダム化比較試験の課題論文を事前に渡して熟読したうえで、患者への同意説明文書を作成して、患者チームに対して30分間のセッショ「治験のインフォームド・コンセント」の演習風景96集中講座記録集
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