50年のあゆみ
92/262

一般の人へは中学生など早い段階からの教育・啓発が大切「今いる場所」を大きくすることが最終的に仲間づくりにつながる――一般の方々への啓発の重要性も指摘されました。〈安藤〉シニアチームの座談会を含め、一般の方への啓発の必要性について、さらに認識を強くしました。いま、患者さんを診ていると、特に高齢者では薬を欲しがる方が多いと感じます。初診の患者さんに「薬は要らないね」と伝えると、他の医療機関に行ってしまうという状況です。その意味では、薬には副作用もあり、本当に必要な時だけ使うということを、改めて一般の方々へ教育する必要性を感じています。また、治験は効果があるかどうかを調べるために必要だということも含め、義務教育の中で教育すべきというご指摘がありましたが、中野先生のご意見のように中学生ぐらいから、しっかり教育することが大事なのかなと思いました。〈渡邉〉中核世代チームでも同様の話は出ていたと思いますが、臨床薬理研究振興財団(以下、財団)が一般市民の方々にも臨床薬理学の意義について啓発活動を行った方がよいのではないかというご意見がありました。とても大事な視点だと思います。――今後の臨床薬理を受け継いでいく次代の方々に、渡邉先生からアドバイスをお聞かせください。〈渡邉〉特にリーダーとなる先生方には、自ら楽しくやりがいを持って臨床薬理に取り組み、その姿を若い人に見せ、臨床薬理は面白そうだと、興味を持ってもらうことが大切だと思います。そのようにして仲間を増やしていただきたいと思います。臨床薬理学講座を主宰されておられる先生方が、臨床薬理を越えて活動範囲を広げていくことも、仲間を増やすことにつながっていくと思います。〈安藤〉シニアチームの座談会や渡邉先生のお話を伺うなかで、私は先輩の先生方と臨床薬理に対する思いは一緒だと感じました。中核世代チームの座談会にお集まりいただいたのは、臨床をベースに、あるいは臨床に携わりながら研究をされている先生方ですので、多少の違いはあっても同じ方向に向かって取り組んでいると実感しました。また、今日のお話も含め、これまでの流れと今後の方向性に矛盾はないと思いました。話しいただけますか。〈渡邉〉第Ⅰ相臨床試験は医薬品開発の最初の関門で、臨床薬理学が専門とするステップだと思います。これまでは薬物動態に関する情報が主に集められていますが、加えて、なるべく早い段階で薬の効果の当たりをつける、いわゆるPOC(プルーフ・オブ・コンセプト)獲得により、その後の臨床試験へのGO/NO GOの意思決定を早めることが求められています。効率的な医薬品開発、創薬力の強化には、この段階で薬の性質を理解するため、なるべく多くの情報を入手することが勝負になってくると思います。日本の得意とするイメージング技術や先進的なバイオマーカーを組み合わせ特長のある第Ⅰ相臨床試験が実施可能な施設を整備し、拠点化を進めることで、日本が世界に注目される創薬の場になることを期待しますし、臨床薬理が貢献できる部分は大きいと思います。〈安藤〉おっしゃるとおりです。臨床薬理試験の中身も含めて、日本のクオリティは高く、それを生かしていくことが大事だと思います。〈渡邉〉早い段階から候補薬の特徴をよく把握するという、一歩進んだ臨床薬理試験が可能な体制を整備し、付加価値をつけていく必要があります。〈安藤〉レギュレーションとの関係はどうでしょうか。〈渡邉〉日本の臨床試験の質の高さ、特長をもっとアピールするという点では、私たちも含めて努力が足りない面もあります。医療法上で臨床研究中核病院が位置付けられ、First-in-Human(FIH)試験が実施できる体制が積極的に整備されています。ただ、どういうFIH試験を進めていくべきかについて、臨床薬理の立場からしっかりと意見を言っていくことが大事だと思います。〈安藤〉私たち臨床薬理の研究者と製薬企業とのコラボは大切です。その意味を含め臨床研究中核病院の位置付けについてどうお考えですか。〈渡邉〉臨床研究中核病院は全国に15施設まで増えてきました。病院は診療が大きなミッションですが、臨床研究中核病院の場合は革新的な医薬品・医療機器、医療技術を開発することもミッションとすることが求められています。この位置付けは医療者のマインドセットを変える大きな意味があると思っています。ただし、各臨床研究中核病院に臨床薬理に精通した人材が十分配置されているかというと、そこまでではないのが残念です。また、開発される医薬品候補はアカデミア発とともに、製薬企業からの開発品目が含まれるのはもちろんです。企業側の要求に応えることが、レベルアップの機会になると思います。3)新たな時代に望まれる若手研究者への期待90座談会

元のページ  ../index.html#92

このブックを見る