世代を超えてポリファーマシーにおける役割の重要性を確認自ら臨床薬理の実践を見せていかないとマインドは伝わらない2)臨床薬理の発展に向けた研究、 教育、社会活動こともあるから、有害反応が出ないように使いましょう」と言えるのは、やはり臨床薬理学者だけだろうと思っています。〈渡邉〉薬のやめ方について、しっかり研究すべきというご意見はそのとおりです。そのためにはランダム化比較試験を通じて、説得力をもってエビデンスを示さなければいけないですね。例えば心不全治療薬のジギタリスを使っている人を対象に、服薬を休止した人と比較したPROVEDやRADIANCE試験では、休止した場合の、心不全の悪化や左室駆出率の低下が示されました。引き算の研究例はあまりありませんので、今後の課題だと思います。――臨床薬理学発展に向けた方向性についてお話しください。〈安藤〉中核世代チームでは、乾直輝先生が臨床薬理学という言葉が使われなくても、臨床医の誰もが、臨床薬理学をきちんと理解しているような時代になればよいと話されましたが、まさしくそう思います。そうするために臨床薬理の教育をして、牽引していくのが臨床薬理学者の役割だと思います。同時に自らの臨床薬理研究を実践している姿を見せていかないと、そのマインドは伝わらないと思います。〈渡邉〉最初に臨床薬理学は基本的な領域だと話しましたが、そこを理解してくださる先生が増え、自ら実践していただければよいと思います。そのために、臨床薬理の専門家が率先して有害事象を最小化し最大の薬物効果を引き出せるような個別化薬物治療を提供するところを、見せていくことが大事だと思います。同様に臨床薬理学の専門家が、自ら臨床試験を計画、実践し、最後まで完遂することも重要です。その姿を見て、同様に臨床試験を計画立案し、最後まで試験を実行できる能力を持つ人が育成されることを望みます。多くの大学に臨床薬理学講座が設置され学部教育から臨床試験の基本を伝える機会があればよいと思います。少し前ですが浜松市で日本内科学会の地方会が開催され、臨床薬理学の乾教授が会長を務めました。臨床薬理の先生がもうひとつの専門分野を持ち、内科や外科など他学会の中で、いわば二足の草鞋で活躍されることはとても重要です。他の専門領域の中で臨床薬理の専門家として活躍される先生方が増えあります。患者さんによっては朝と夜飲む薬の順番を変えるだけで、血圧コントロールが改善することもあります。〈安藤〉私が、なるほどと思ったのは中野先生がおっしゃっていた「医療の基本構造」です。サイエンスとアートとおっしゃっていましたが、アートとは医師の「さじ加減」の部分で、とても重要だと思います。ただ、そこには医療コミュニケーションが必要です。その患者さんにとってより良いものを判断するためには、AIには難しいコミュニケーション力が必要で、そこがさじ加減ではないかと思います。〈渡邉〉そのとおりだと思います。患者さんの訴えとともに患者さんの性格や家庭状況などをしっかり把握、理解することが大事です。今後は検査値や画像データとともにそれらの情報を網羅的に生成 AI に取り込むことで、医師よりも正確な診断や治療方針の決定がなされる時代が来るかもしれません。しかし、患者さんの表情の変化を読み、どういう声かけが良いのか、納得して治療に参加いただく方法はあるのかを考え対応したり、あるいは薬の処方は決まっていても、その投与タイミングなど、さじ加減の部分はアートだと思いますし、AIが進歩しても生き残っていくのではないでしょうか。――座談会を読まれて注目された点を伺えますか。〈渡邉〉両チームに共通して、臨床薬理のなすべきことのひとつとして挙げられた課題にポリファーマシー対応がありました。多疾患を有する患者さんに各領域の専門の先生方が、その疾患ごとに適した処方をされますが、最終的には多くの診療科から処方されたたくさんの薬が投与されているという実態もあります。その状態を整理し薬物相互作用を理解した上で、最適な薬物治療を提案することは、臨床薬理の重要な務めだと思っています。今後さらに高齢者人口が増加する中で、ポリファーマシーは大きな課題だと思います。〈安藤〉中核世代チームでもポリファーマシーの交通整理をできるのは、臨床薬理学者だけだろうというのが総意でした。私は有効性と有害反応を考えて交通整理をしていけばよいと思っていましたが、シニアチームの座談会を読んで、薬のやめ方についても、しっかり研究すべきだろうと思いました。薬をいつまで飲むべきかということは、現場でもとても重要な問題だと思います。また、どの専門領域の先生も有害反応が出たら、その薬はやめて、他の薬に変えればよいという感覚だと思います。しかし、「この薬は、こんなに良い88座談会
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