50年のあゆみ
89/262

薬物有害反応を最小化する視点の重要性など本質的な点を議論「さじ加減」などアートの部分は今後も生き残っていく――初めに座談会をお読みになった感想をお聞かせください。〈安藤〉シニアチームの座談会を拝読し、まずは日本における臨床薬理学の黎明期から発展期に至る歴史、その時々の大先輩方の思いを知ることができ、感慨深いものがありました。中野重行先生のお話は、何しろ私が生まれる10年ほど前の60年安保闘争時代から話が始まっており、全く知らないことも多く、純粋に読み物としても面白かったです。当時は「全国医学生ゼミナール」が開催され、非常に熱い医学生が多い時代だったのだと思いました。1969年には臨床薬理学研究会が設立され、その6年後に臨床薬理研究振興財団が設立されましたが、その当時の先輩方の熱い思い、わくわく感が、ひしひしと伝わってきました。私は日本臨床薬理学会で長らく専門医制度と関わってきましたが、私の恩師の藤村昭夫先生のお話から、専門医制度創設時の状況など、初めて知る話もあり、詳しく知ることができました。平井みどり先生のお話は、当時の女性医師、女性研究者の置かれた状況に思いを馳せることができました。渡邉裕司先生、家入一郎先生、森下典子先生のお話は、私が医師になってからの話題が中心で、肌身で感じてきた臨床薬理の状況を頷きながら読み進めました。渡邉先生については、リアルタイムで憧れを抱きながら姿を追ってきました。肺動脈性肺高血圧症にシルデナフィルが有効であることを明らかにし、公知申請で効能・効果の承認まで獲得されたこと、 そのなかで医師主導治験の体制整備にもご尽力され、尊敬の念を抱きました。浜松医科大学では附属病院内で臨床薬理内科をなじみ深い存在にされてきた手腕にも改めて感服しました。渡邉先生のお人柄もありますが、臨床研究に対する熱い思い、真摯な姿勢がその牽引力になったものと感じました。家入先生からは、当時の薬学の先生方は医師とは異なり、臨床という言葉に対しベッドサイドという認識がなかったということも印象的でした。森下先生のお話では、当時、多くの国民が治験に対してネガティブなイメージを抱いていたと知り、 CRC の皆さんのご苦労を垣間見ることができました。〈渡邉〉中核世代の先生方の座談会を拝読して、臨床薬理学の将来を見据え熱心に議論してくださったということを感じました。臨床薬理学のミッション1)両座談会を介した相互の思いと焦点は分野横断的で、患者さん一人ひとりに一番適した薬を選択し、それを最適な用量で投与し、有害作用も含めた効果を評価するという、どの専門領域でも求められる基本的なことであり、個別化治療をさらに推進することを目指しています。その意義や重要性を他領域の先生方にも理解して欲しいという、ご意見が多かったと思いました。臨床薬理の研究は基礎から臨床への橋渡しであり、いろいろな専門領域を包含しています。フィジシャン・サイエンティストの重要性も改めて示されたと思います。安藤先生が研究されている時間治療は薬の効果を最大化する、まさにさじ加減の部分であり、臨床薬理学が本領発揮するところだと思います。臨床現場では有効性に注目しがちですが、有害反応を最小化する視点も重要だということを含め、本質的な点をご議論いただいたと思います。その他にも、今後の臨床薬理学や日本臨床薬理学会が発展していくために、国際化や他学会との連携がとても重要だという認識が示されていました。――時間治療学を含め、さじ加減は大事なキーワードだった思います。〈安藤〉時間治療は有効性、安全性がより高くなる時間に薬を投与する治療法です。しかし、有効性や安全性の高い時刻が、必ずしも患者さんや医療者にとって投与しやすい時間とは限りません。ある種の抗がん薬は以前から、夜中に投与するのが最適だと明らかになっていましたが、夜中に安全に投与できるかというと、医療体制的には不安があります。また、コレステロールは夜に合成されるので、スタチンは夜寝る前、もしくは夕方に飲むのが良いだろうと言われてきました。しかし、夕方に飲む、という縛りがあると処方しづらくなります。最近はストロングスタチンが出て、いつ飲んでもしっかり効くので飲む時間は関係なくなりました。患者さんの飲みやすさと、そこを配慮した処方のしやすさが優先されますので、時間治療は実践されにくいのが現状だと思います。〈渡邉〉服薬タイミングにも、医師のさじ加減の部分があります。例えば高血圧の患者さんで、早朝に急激に血圧が上がるモーニングサージの場合、イベントの発生率が高くなる朝の血圧上昇を抑えることが大切です。そこで夜寝る前のタイミングでの降圧薬の内服を検討しますが、それに適した薬と適さない薬とがあります。カルシウム拮抗薬は夜内服すると、夜中にトイレに行きたくなることが多く、睡眠の質が低下するなど、期待した効果に反する場合も87

元のページ  ../index.html#89

このブックを見る