個々の患者に有害反応を出さないためには臨床薬理学者の活躍が必要2)個別化医療への貢献と推進についてう未開拓の研究領域もあるので、しっかりと調べていく必要があると強く感じています。〈庄司〉歴史が長いバンコマイシンでも、小児領域ではちゃんとしたTDMがされてない現場が未だにあります。当院ではICUやNICUに専属の薬剤師さんが常駐し、医師からの相談を受け、TDMを含め投与設計に寄与してくださっています。例えば体重が400g程度という未熟児の感染症にバンコマイシンを使わなければならない時、その専門性の高い薬剤師さんが患者さんの病態も踏まえて、投与設計を提案してくれます。しかし、他の病院では未熟児についてTDMを含め、どうしてよいか分からないという状況もあります。そうした相談を当院の薬剤師さんにつなぐと、シミュレーションなどをした上で投与設計の提案を返していただけるので、非常に喜ばれています。例えばエリアごとに1つ中核病院を置いて、何か症例で困った症例があった場合に血中濃度だけ測って連絡すると、さまざまなシミュレーションをして返すという体制ができればよいのではと考えています。それが当たり前になれば臨床のレベルが一段上がると思います。〈安藤〉すでに計算式は確立しているのですね。〈庄司〉私は日本化学療法学会と日本TDM学会で作っている「抗菌薬TDM臨床実践ガイドライン」の委員として、バンコマイシンの部分を担当しています。成人領域でバンコマイシンのシミュレーションをしてAUCで調整していこうということが普及し始め、小児でも対応できるソフトを作り、普及を進めているところです。将来的には日本臨床薬理学会などが音頭を取って、TDMセンター構想を提案してもよいのではないかと思います。〈安藤〉データがあれば、AIで対応できるのではないでしょうか。〈庄司〉今までは母集団薬物動態/薬力学解析では、共変量探索で何が有意なのかと、地道にひとつずつ試しながらでしたが、おそらくAI参入で一気に作業効率が上がると思っています。〈安藤〉だからこそなおさら、この先10年、20年で抗体医薬品などのデータがない薬についてのデータを作っていくことが大事になりますね。25年先には誰でもカルテを書けば、ボタンひとつで自動的に読み込んで、最適な計算式により投与量や用法を決めて、推奨してくるというシステムが期待されます。〈福土〉インフリキシマブというTNFαに対する抗体医薬品は、クローン病、潰瘍性大腸炎に使われていますが、シンシナティ小児病院では電子カルテに連動する形で、PKダッシュボードのようなものが作られ、その患者さんの体重、インフリキシマブの投与量、ターゲット濃度を設定すると、自動的にシミュレーションし、あらかじめ決めた投与量に対〈安藤〉臨床薬理学の啓発・普及は難しい面はありますが、乾先生がおっしゃったように、25年後には臨床薬理学という言葉を使わなくても誰もが知識として持っている状態になってほしいですし、そうでなければいけないと思います。ぜひ先生方の活躍で、特に若い先生方の力で推進いただきたいと思います。今後、一番に進めていくべきことは、お話にあったように個別化医療だと思います。10人中9人、10人中7人に効くというガイドライン的なこととは別に、残りの1人、3人をどうするのかも重要です。まさに個別化医療が非常に重要になってきます。また、臨床医は一般的に薬の有効性には興味を持ちますが、その薬を「有害反応を克服して使いましょう」という考え方にまではならないので、そこも臨床薬理学者の活躍が必要な領域かと思っています。これらの点についてはいかがでしょう。〈福土〉これまでFDAが承認してきた抗がん剤の主要なものは約100品目ですが、TDM対象として研究している薬はほんの一部で、手つかずの状態です。アメリカでも日本でも添付文書どおりに使っていても、副作用が出る人もいるので個別化研究が必要だと思っています。先日、北海道大学で開かれた日本TDM学会での演題内容を見ると、バンコマイシンなどの昔から研究がされている薬物が多くて、新薬のTDM研究が少ない印象で、あまり新しさを感じませんでした。最近はどんどん高薬価の薬が多くなり、効く人には高い薬であっても使ってあげないといけませんし、効かない人には他の薬を提案する適正使用が重要です。そういう研究にもっと力を注いでいく必要があると思います。〈安藤〉TDMはすごく重要で学生にも教えていますが、最近は抗体医薬品も多く出てきています。TDMとの関係はどうでしょうか。〈福土〉海外では随分前から抗体医薬品のTDM研究はされていますが、日本では研究者も少ないです。ヨーロッパでは例えば、TNFαモノクローナル抗体医薬品を使用する際には、「薬物血中濃度測定が有用」となっています。血中濃度が低くなってくる原因として、繰り返し使うことで免疫原性によって、抗体医薬品に対する中和抗体ができてきます。しかし、日本人のデータはほとんどありません。そうい82座談会
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