50年のあゆみ
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小児の臨床研究について語る肥田氏常に多く、保険会社は保険金を支払いたくないので、保険会社とコラボレーションしながら研究するという動きはあります。〈乾〉一般の方に向けて、そういうデータがあることによるベネフィットも啓発していく必要がありますね。〈曳野〉理化学研究所の一般公開日には、そういう研究分野があることを丁寧に紹介していますが、反応は良いです。地道ですが、そういう啓発活動はしています。〈安藤〉ところで、研究を進める上で、小児だと、同意を取得するのは親御さんからだと思いますが、重症の患者さんはともかく、そこまでではない場合にも同意はいただけますか。〈庄司〉例えば長期のがん患者さんだと、「お世話になったので、未来の子たちに役立ててもらえるなら…」と、同意をいただけることはあります。ただ、親御さんは、子供が痛みを伴うことに対して敏感です。大人のように薬剤投与後、6-8回も採血して血中濃度曲線を描くというのは、さすがに難しいです。そもそも体格が小さい子供だと、安全に採取できる血液量を超えてしまうこともあります。中心静脈や動脈のラインがない場合、体格の小さな小児では針を刺して採血することが技術的に難しいこともあります。そういう意味でも一人当たり1回、2回の採血での実施可能な母集団薬物動態解析、残余検体の活用なども、小児で研究を広げていくためのひとつのキーワードだと思います。できる限り負担の少ない形を考えたいと思っています。〈安藤〉肥田先生のミニタブレットも、子供での研究はたいへんそうですね。〈肥田〉そうですね、可能であれば子供でも血中薬物濃度を測定したいのですが、現実には難しいです。微量の血液でさまざまな解析ができるような技術革新を待っています。患者さんの負担を考慮し、血液検査などの侵襲以外にも、評価項目を最小限に絞る、拘束時間を短縮するなどといった工夫が必要かもしれません。である臨床薬理学研究が、その取り掛かりとしてチャレンジしやすいと思います。その後、本格的な基礎研究に進む、また、臨床現場に戻るのもよいのですが、多くの医師に臨床薬理的な研究をぜひ一度は味わってほしいと思います。〈庄司〉学生さんには臨床薬理学の「臨床」の部分を感じてもらう工夫が必要だと思います。また、初期臨床研修の2年間に、ある程度、臨床薬理学に触れさせることはできるのではないかと思います。ただし、具体的にどこに働きかければできるのかはアイデアが必要です。また、最近の若い先生方は研究に興味を持ちにくく、臨床の人は臨床だけ、研究の人は研究だけという傾向が少しあると思っています。若い先生方に話すときにPhysicianScientistという、その中間のようなキャリアもあると伝えると興味を持ってもらえることもあります。今後はそうところをアピールしていきたいと思っています。自分が研究をするなかで一番意識していることは、最終的に臨床現場に還元するデータを作りたいということですので、例えば投与設計に直結するようなまとめ方をするなどの工夫をしようと考えています。また、薬剤部の若いレジデントの先生方が定期的に症例発表をするところに出席し、臨床医の目線でフィードバックしています。小児科全体として現状では、小児科専攻医の到達目標に臨床薬理学的な項目が入っていません。そこで臨床薬理学的な知識や技術習得をある程度、到達目標として掲げられないだろうかと、学会側と交渉しています。〈安藤〉それは素晴らしいですね。サブスペシャリティ領域はもちろんのこと、基本領域の専門医を取るためにも、臨床薬理学を学んでないといけないという単位取得の必須化ができればよいと思います。〈乾〉確かに専門医取得の資格要件にならないと、忙しいなか、優先的に学んでもらえないかもしれないですね。〈肥田〉少し唐突かもしれませんが、25年後にはマイナンバーカードにゲノミクスのデータも全部入るということはあり得ませんか。今は患者さんの同意のもとに過去の薬や特定健診の情報などが見られますが、もし、ゲノミクスデータが含まれるようになれば、なんらかの遺伝子多型がある患者さんがマイナンバーカードを持って保険薬局に来局した場合、その情報を基に薬剤の効果等が予測できるようになりますよね。臨床薬理の先生方の活躍の場が、さらに広がっていくと思います。〈安藤〉遺伝子情報には社会的に抵抗感がありそうですね。アメリカではどうでしょうか。〈曳野〉例えば、ハワイ大学では研究ベースですが、アジア人が多いので、クロピドグレルの副作用が非81

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