「医者のさじ加減」という言葉はまさに臨床薬理治療学国内外の臨床薬理学教育について討論する乾氏と曳野氏ています。昭和医科大学の例ですが、6年次に症例研究実践コースというコースを設け、卒業研究としても症例演習に取り組んでいます。ベッドサイドで患者さんの治療を実際に見せていただきながら、研究する形です。まさに臨床薬理に相当すると思います。〈安藤〉多くの医学部では、臨床薬理学を十分に分からない先生方が治療学を教えているように思いますが、乾先生のところはいかがですか。〈乾〉臨床薬理学の研究や教育を行うに当たって、浜松医科大学は本当に恵まれた環境にあると思います。非常に長い活動の歴史があるので、私が特別に何か働きかけをしなくても、臨床薬理学が教育にうまく組み込まれている状況です。診療する医師には必須の学問・知識であり、「医者のさじ加減」という言葉はまさに臨床薬理治療学の考え方だと思います。〈安藤〉医学教育のコア・カリキュラムのなかで、薬物治療学を学ぶよう義務付けることも考えられますが、現実には難しいと思います。曳野先生は海外での活動が長いですが、アメリカではいかがですか。〈曳野〉やはり臨床薬理学研究をしている方と知り合った学生がそこで興味を持って、という流れです。シカゴ大では臨床薬理のフェローの時に、私も講義を担当しましたが、医学部の中では臨床薬理学の講義は症例ベースでしています。そこで全員が普段から臨床薬理学には触れています。〈乾〉今後、さらに高齢化が進み、多くの薬を飲む人が増え、ポリファーマシーはますます問題になっていくと思います。例えば循環器、呼吸器、消化器、あるいは整形外科で出される薬は、それぞれの専門の医師が責任を持って処方されています。ただ、他科で処方される薬との関係性については十分理解していない医師も多いと思います。それぞれの専門分野の治療を俯瞰的に調整するコーディネートが非常に重要であり、臨床薬理に関わる研究者の活躍が求められる場面だと考えます。複数科の診療に関係する薬のことなので、コーディネートは簡単ではないですが、ますます重要な領域になると思います。私は学生に、医師の重要な使命のひとつは、クリニカル・クエスチョンに基づいて研究することだと伝えています。臨床と非常に親和性の高い研究領域ら学習を進めるアクティブ・ラーニング形式の授業を採用している大学も増えています。〈福土〉薬学部の中で臨床薬理学を専門として教えているような講座や講義自体は少ないと思います。今のお話は学問としての臨床薬理学でしたが、研究として捉えた場合に、例えば、CPTという非常に格調高いジャーナルがありますが、その雑誌名にはクリニカルファーマコロジー・アンド・セラピューティックスと、治療学がついています。今後は個別化治療という学問が、非常に大事になってくると思います。〈乾〉私も福土先生のお考えに大賛成です。本来、臨床薬理学という名称には治療学が入った方がよいと思います。日本臨床薬理学会という学会名も治療学の部分が少し薄く感じられます。内容を分かってもらえれば、治療に直結する領域だと理解されますが、実際には治療学としての部分がうまく認識されずに、結果として、臨床薬理学に対する理解が十分でない現状につながっているように思います。そういった面から、特に教育では臨床の側面を強く押し出した方が、この学問の面白さが伝わり、実際にライセンスを取った後に専門にしようと考えるのではないかと思います。教育・研修の段階が進んでから経験する領域という位置付けでは、例えば小児科の専門医、あるいは他にライセンスがあるから臨床薬理についてはもういい、という感覚になってしまうように感じます。〈安藤〉医学部教育は歴史的に症候学、診断学がメインですので、なおさら臨床薬理学といっても学生にはピンとこないのかもしれません。ところで薬剤師の皆さんはどの程度、臨床薬理学を分かっているのでしょうか。〈福土〉臨床薬理という視点で、薬剤師のなかでは治験業務として行っている部分が半分ぐらいはあると思いますが、薬物治療学、個別化治療として臨床薬理学を研究展開するというところは、まだ少ないと思います。大学ごとで見ると、できている大学と、まだできていない大学とに分かれているという印象です。〈安藤〉薬学部としてはどのように対応されていますか。〈肥田〉6年制になり各大学で努力され、だいぶ変わってはきていると思いますが、医学部を併設する総合大学などではわりと「臨床的疑問から考えてみよう」という授業はしやすいと思います。一方で、単科の薬科大学では少し難しいという意見があがっ80座談会
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