第2部 パネルディスカッション 世界も視野に臨床薬理学発展に向けた将来展望臨床薬理学の教育と仲間作りを進め個別化医療を推進臨床薬理学の将来について語る庄司氏と乾氏〈安藤〉ここからは「25年後、2050年にどういう世界になっているか、したいか」について、皆さんで話し合いたいと思います。〈曳野〉トロント小児病院の伊藤真也先生は臨床薬理部門を立ち上げ、小児科における専門分野のひとつとして確立しておられます。そういう体制作りは参考になるかと思います。〈安藤〉おそらく、小児科医は皆、臨床薬理学の必要性が分かるというか、嫌でも臨床の場面で「この子には本当にこの用量でよいのか」などと悩むのではないかと思います。小児では、年齢によって体重や薬物代謝能が全く異なりますので、臨床薬理学を受け入れやすいと思います。一方、内科では治療域が広い薬が多く、また危ない薬は使わないようにすればよいという感覚になりがちです。〈乾〉私が思う理想的な25年後の姿ですが、臨床面では臨床薬理学と言わなくても、臨床薬理学の考え方に基づいた診療ができているとよいなと思います。具体的なアイディアはすぐには思いつきませんが、今の話にあった用量調整については、小児科ではもちろんですが、成人でも特に抗がん剤や免疫抑制剤など、さじ加減が難しい薬では必要な考えであり、重要な研究領域と思います。まずは、このような課題に集中して取り組んでいく、そして継続していくことかと思います。〈安藤〉ありがとうございます。日本もしくは世界レベルでの臨床薬理学の夢、将来について、庄司先生はいかがですか。〈庄司〉自分が小児科医ということもありますが、そもそも添付文書に小児用量の記載がなく、小児のが、このような研究の限界を感じ、もう一歩研究を進めたいと思っていた時に、カリフォルニア大学サンディエゴ校小児科の臨床薬理部門に研究留学しました。日本では大学院には行っておらず、薬理学研究をしたこともない状況で、アメリカの施設に飛び込み研究生活をスタートしたので最初はたいへん苦労しました。現地の上司から研究テーマは与えられましたが、私があまりに臨床薬理学研究に対する基礎知識が無かったため「まず君は薬学部の実習と講義に出なさい」と促され、最初は薬学生とともに授業やワークショップに参加しました。それがすごく良い経験でした。自分がこれまで受けてきた医学教育、卒後研修で学んでいた薬に対する知識が表面的だったことに気づきました。現地では、主に抗微生物薬に対する母集団薬物動態解析を用いて、特に小児にフォーカスを当てて研究をしました。帰国後はできるだけ研究費を継続的に獲得して、所属施設の薬剤部の先生方との協力体制のなかで研究を継続しています。留学は2年半ほどの期間でしたが、その後の勉強も含めて得られた臨床薬理学の知識は臨床面でもすごく役に立っていると実感しています。ひとつの薬を処方するにも、その時の患者さんの状況を見極めながら、何の薬をどのくらいの投与量、間隔で処方するのがより適切かと、薬剤師さんと同じ目線でディスカッションもできているので、自身の臨床の質が上がったと実感しています。小児病院というフィールドには重症の患者さんが集まってきます。それも研究する上では非常に恵まれていると思います。財団からは研究奨励金を一度いただき、曳野先生のグループとともに薬理遺伝学と薬物動態を組み合わせ、抗真菌薬・ボリコナゾールについて共同研究をしています。一方、自分の計画が少し狂ったと思うのは、新型コロナウイルス感染症の流行です。小児感染症科は感染症の臨床と感染制御とを一手に引き受けていますので、約3年間は研究に関わる時間を捻出するのにたいへん苦労しました。ただ、日本の新型コロナウイルス感染症の子供や妊婦さんのデータがなかったので、業務の合間をぬってデータをいくつかまとめることができました。ここで実施した研究は必ずしも臨床薬理学的な内容ではありませんでしたが、臨床薬理学研究のノウハウがあったからこそ実施できたと思います。さて、近年は臨床医であり、研究もある程度するPhysicianScientistが話題になりますが、そのメリットは臨床医の視点を持って、「今何が現場に足りないデータなのか」、「どういうデータのまとめ方をすると臨床現場に役立つのか」と考えながら研究をできるところです。今後も良いPhysicianScientistになることをひとつの目標とし研究、臨床に邁進していきたいと思います。78座談会
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