50年のあゆみ
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臨床薬理学の知識を身につけ 臨床と研究のレベルを向上庄司健介 氏〈乾〉通常よりさらに小さいミニタブレット作りはたいへんだったと思いますが、この技術は他領域にも応用できるかもしれませんね。成分によって製剤化のハードルは違いますか。〈肥田〉現段階ではアスピリンしか試せていません。一つひとつの錠剤に同じ量の成分を入れないといけないというところが、難しい点です。本日ご紹介したアスピリンミニタブレットは、昭和医科大学病院薬剤部にある打錠機で1錠中に10mgのアスピリンを含有するよう作成しました。小児だけでなく、成人でも大きい錠剤が飲みにくいという方もいますので、広く患者さんに役立てる技術ではないかと思っています。〈安藤〉最後に庄司先生、お願いします。〈庄司〉国立成育医療研究センター感染症科の庄司と申します。私は2005年に宮崎大学医学部を卒業しました。初期臨床研修が必須化されて2年目ぐらいで情報もなく、大学に残った方が良いのか、それとも別の施設が良いのかと悩みましたが、結局、東京で研修を行った後に、現在の所属先である国立成育医療研究センターで小児科専攻医として研修しました。サブスペシャリティは小児感染症で、現在、新潟大学小児科教授の齋藤昭彦先生が、当時アメリカから戻って国立成育医療研究センターに小児感染症フェローシップを立ち上げるというタイミングでしたので、フェローとして受け入れていただき、その後スタッフになり現在に至ります。国立成育医療研究センターでは固形臓器移植を多く実施しています。移植後の患者さんは当然、免疫抑制剤を使います。または体外循環が実施されている患者さんもいますので、重篤な感染症を起こすリスクがあります。このような患者さんが感染症を起こした際にどの抗菌薬を使用すべきかについては決められるのですが、例えば移植後、または体外循環があるなどの背景がある患者さんに対するベストな投与量や投与間隔は添付文書、教科書には載っていないことが多く、特に小児の薬物動態、投与量に関するデータはかなり限られていると思っています。以前から、患者さんのデータを後方視的に解析するタイプの研究をしてはいたのですが長期に飲んでいくと、吐き出して困っていると聞かされ、アスピリンを含有するミニタブレットを開発しました。散剤とミニタブレットで同様の薬物動態を示すことを薬物動態比較試験でも確認しています。研究はいよいよ最終段階に入っており、川崎病の子供たちにアスピリンミニタブレットを服用してもらい、服薬継続できるか検討しています。すでに症例集積は15例まで進んでいます。今後、ミニタブレットに関する研究はドイツのデュッセルドルフ大学の先生方とともに国際共同試験のフェーズに入っていきたいと思っています。もうひとつは高齢者など嚥下困難な患者さんを対象とした研究です。水の代わりにとろみ水を用いることにより、誤嚥性肺炎が予防できるといわれています。病棟でもとろみ水がよく使われています。しかし、最近、とろみ水が薬物動態に影響を及ぼすことが分かってきました。とろみ水に含まれるキサンタンガム系の増粘多糖類が、医薬品の崩壊、溶解に影響を及ぼすといわれ、実際に酸化マグネシウムの錠剤をとろみ水で浸漬させると膨らんできますが、崩壊しないということが分かっています。結果、AUCもCmaxも下がる可能性があるので、私たちは、さまざまな医薬品で崩壊試験を行っています。例えば、シプロフロキサシンの血中濃度の比較では、錠剤を水で服用するのととろみ水で服用するのとを比べ、AUC、Cmaxが下がってきていることが分かってきました。私は臨床薬理学の自由度の高さを活かして、疾患領域を限定せず、さまざまな診療科で役立つエビデンス創出に努めたいと思っています。特に、子供には薬の形も、味も万人受けするものがありません。そこで私たちのなかで議論しているのは、「無味無臭、色もついていない薬があったらよいな」ということです。患者さんが好きな色や形に加工できる夢のような薬があれば、子供にも受け入れやすいのではないかと思います。レギュレーションとの関係もありますが、患者にとって最適化された医療を提供できればよいなと思っています。いずれにしても厚労省、PMDAに加え、業界団体も含めて議論が進むと本当によいと思います。こういった提言をまとめるのも日本臨床薬理学会のひとつ大事な役割ですし、臨床薬理研究振興財団のお力も借りながらできればと思っています。私の研究室はスタッフが3人と、研究室のスタッフだけでできることは限られていますが、研究室の垣根を超え、他の研究室や診療科の先生方と連携し、昭和医科大学ならではの取り組みを続けていきたいと思っています。また、社会実装できる形で研究成果を還元できるよう情報発信したいと考えています。他のアカデミアの先生、企業とも連携し、さらに新しいことに挑戦していきたいと思っています。77

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