50年のあゆみ
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小児や高齢者のアンメット・ メディカル・ニーズを焦点に肥田典子 氏〈安藤〉次に肥田先生、お願いします。〈肥田〉昭和医科大学(旧・昭和大学)薬学部を卒業して、製薬企業のMRと調剤薬局の薬剤師を経験後に、鳥取大学医学部に編入学し、医師免許を取得しました。したがって、私は薬剤師と医師と2つのライセンスを持っています。研究に興味を持つきっかけとなったのは、医学部の学生時代まで遡ります。4年生の時に中世日本人の骨を発掘して、顔を組み立て直す復顔研究をスタートしました。大学近隣には古墳がたくさんあり、研究に好都合の環境だったようです。また、5年生では片頭痛の共存症調査をしました。学会で成果を発表したところ、最優秀演題賞を頂くことができ、「研究って面白い」と思うようになりました。大学卒業後は、臨床を行いながら研究を行うことができる大学病院での研修を選択しました。臨床医としては呼吸器内科医の道を歩み始めましたが、その後、ご縁があって大学院博士課程で臨床薬理学を選択したことが臨床薬理との出会いです。学位研究は、気管支喘息治療薬の休薬が呼吸機能検査へ及ぼす影響をテーマにしました。学位研究は内田直樹教授にご指導いただきましたが、同時期に小林真一先生が所長を務めている昭和大学臨床薬理研究所で治験、特に健康成人を対象とした第Ⅰ相試験や早期・探索臨床試験などを担当させていただきました。学位取得と同時に臨床医から医学部の教員として、研究・教育活動に従事するようになりました。医学部の教員を経て、3年前に薬学部に移りました。薬理学の講義の一部のほか、臨床研究の指導を行っています。特に臨床研究の質向上というところでは教育活動にも力を入れていきたいと思っています。現在は、国立成育医療研究センターの中村秀文先生らと一緒に小児用新規剤形の研究のほか、高齢者など嚥下困難がある患者を対象とした、とろみ水医薬品の相互作用に関する研究といったアンメット・メディカル・ニーズの解決を目標に研究を進めています。具体的には子供たちが服用しやすい医薬品づくりで、2019年から小児用の直径約3mmのミニタブレットの開発を進めています。研究に着手した当初はプラセボでしたが、薬剤師の先生からアスピリンは酸っぱ苦く、川崎病の子供たちた。ADRB2遺伝子とアルブテロールとの関係では、メタ解析で、ある特定の集団、すなわち小児患者に絞れば関連しているということを示すことができました。いずれも論文化しました。他にも関わった研究になりますが、タイでは小児腫瘍患者にメルカプトプリンを使う時はTPMT遺伝子をチェックしてから始めるというのが現在のガイドラインですが、アジア人に多いuncleosidediphosphate-linkedmoietyX-typemotif15(NUDT15)もチェック項目に入れた方がよいと考え、タイ王国・コンケン大学と国際共同研究によるエビデンス作りをしています。対象のタイ人は170人ぐらいでしたが、NUDT15に関して有意差があったので論文化し、コンケン大のWichittraTassaneeyakul教授がガイドラインに反映できるよう活動していました。今後のプランとして、日本の臨床応用につながるような活動を着実に進めるためエビデンス蓄積に注力したいと思っています。実際どのぐらいファーマコゲノミクスが個人差に寄与するかをはっきりさせ、日本人特有のアリルの探索を、主にバイオバンク・ジャパンのデータを使って、何千人かで実施することを検討している最中です。個人差への寄与も何%と、しっかりと説明できているわけでもないので、その辺りも考えているところです。例えば、肝機能障害、腎機能障害について検査値を見ながら、薬剤関連遺伝子との関連性を見ていますが、検査値そのものに、薬剤関連遺伝子ではない遺伝子が関わっていることもあります。その関係性も今後、研究項目に加えたいと思っています。他にもアルコールの反応性はALDH2とADH1Bの関わりで反応性が考えられるとされていますが、そこにクラスタリング解析を入れた時、日本人では三つの集団に分かれることが分かり、投稿中です。そういうことを含め、もっと違った解析でより明確にパターンが決まるという可能性も考えています。最近の動きとして2023年11月に日本臨床遺伝学臨床実装コンソーシアムの立ち上げがありました。日本人類遺伝学会や上司の莚田泰誠先生も関わっており、今後、そのような臨床応用を促進する活動に関わっていければよいと思っています。将来的には確実にゲノム情報が全部取り入れられた治療の形になっていくと思います。そのエビデンスを作る時には、ファーマコゲノミクスはサンプルサイズがすごく少ないので、それを増やせるような形になるとよいと思っています。今は理化学研究所で研究をさせていただいて、少しでも形にできたらよいと思っています。76座談会

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