50年のあゆみ
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日本でのエビデンスを増やす ため臨床から基礎研究へ傾注曳野圭子 氏シカゴ大で「1200人プロジェクト」に関わっているときに同大のマーク・ラテイン先生から、「せっかくトランスレーショナル・リサーチをするなら、体系的に学んだ方がよい」とアドバイスをいただき、シカゴ大で臨床薬理のフェローシップも進め、アメリカ臨床薬理学会専門医を取得しました。その間にCPIC(ClinicalPharmacogeneticsImplementationConsortium)のガイドラインを参考にシカゴ大のガイドラインをつくり、そのとき初めてCPICを知り、そちらにも入ることになりました。CPICには700人以上のメンバーがいますが、日本人は、東北大学の平塚真弘先生と国立がん研究センターの濱田哲暢先生と私の3人です。CPICのガイドラインも次第に増えていますが、当初、私が関わったのはCYP2D6とオンダンセトロンのガイドラインです。他にRYR1遺伝子とCACNA1S遺伝子と、吸入麻酔薬やサクシニルコリンのガイドライにも携わりました。当時、悪性高熱症をきたすと言われてきた遺伝子変異等について、最近は新しいものが見つかってきています。適宜アップデート・ミーティングをして、国立衛生研究所からの資金提供を受けているPharmGKBというウェブサイトにアップしています。シカゴ大では周術期のガイドラインづくりを任されましたが、エビデンスが足りませんでしたので、エビデンスを増やした方がよいと思っていたときに、フェローシップを終えるタイミングで、マーク・ラテイン教授から、「日本人のエビデンスが足りていないが、理化学研究所がしっかりやっている」と紹介され、今、理化学研究所に所属しています。理化学研究所に来たときに上司の莚田泰誠先生から、体細胞系と生殖細胞系のバイオマーカーで、日米でどのぐらい保険適用があるか比較調査してみなさいと指示され、結果、いずれもアメリカの方が遥かに多く、今、日本でのエビデンスを増やしていく研究をしています。特に私がメインで関わった副作用研究の1つがイリノテカンとUGT1A1で、日本人ではUGT1A1*28よりもUGT1A1*6がより強く関係していると論文化しました。次に、フェニトインとCYP2C9については、CPICのガイドラインもありますが、日本人があまり持っていないHLA-Bのアリルがガイドラインに記されています。私は日本人に関わるHLA-Bのアリルである51:01を同定し、副作用が上がるということを示しましブなどのTKI(tyrosinekinaseinhibitor)について、TDM研究をスタートしました。ちょうど、免疫チェックポイント阻害薬(PD1阻害薬)・ニボルマブが日本で世界初承認されたのを機に、PD1阻害薬や分子標的薬、抗体医薬品についても研究をスタートさせました。これらの研究にも財団から研究助成をいただきました。2020年に現職場の札幌医科大学病院に移りましたが、研究環境づくりからのスタートでした。旭川医大時代に研究費で購入した機器を札幌医大に移管し、少しずつ研究を開始していきました。財団からも研究奨励金をいただき、今現在もJAK阻害薬について研究しています。今後のプランとしては、OPERA研究として現在、JAK阻害薬についての研究を進めています。またIMPACT研究では、抗体薬の免疫原性の個人差を明らかにするための臨床研究を現在実施しています。NEWTARGET研究では、新しい分子標的薬のKRASG12C阻害薬などの薬物中濃度、治療濃度域を明らかにしていきたいと考えています。また、添付文書の標準推奨用量では効果が得られない、重篤な副作用が出てしまうなど、1つの投与量ではすべての患者さんには適しないことから、個人差のメカニズムを遺伝子多型や患者背景などで、どれだけ説明できるのかというところを継続して研究していきたいと考えています。臨床薬理学研究には、未開拓領域が多くあります。ナンバーワンでなくてもフロンティア、オンリーワンの研究を進め、新たなエビデンスを創出し、正しい薬を、正しい投与量で、適切な患者さんに使っていく個別化治療の開発につなげていきたいと考えています。主にがんと自己免疫疾患ですが、TDM、遺伝子多型解析に基づく個別最適化の投与方法を確立していくことができればと考えています。〈安藤〉次に曳野先生、お願いします。〈曳野〉元々私は、出身校の島根大学と国立成育医療研究センター、ハワイ大学で小児科初期研修、レジデント研修をした小児科医です。その後、シカゴ大学で小児の集中治療部フェローになりました。集中治療部では薬をたくさん使いますので、人種差を含め、個体差が大きいことに気づきました。シカゴ大医療センターで、ファーマコゲノミクスの臨床応用がされていると知り、そこから臨床薬理学に関わるようになりました。その後は現在の理化学研究所生命医学研究センターでファーマコゲノミクスについて、引き続き基礎研究を続けています。75

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