50年のあゆみ
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臨床薬理学における 未開拓領域にも積極的に挑戦安藤 仁 氏福土将秀 氏〈福土〉私は現在、札幌医科大学病院薬剤部にいる薬剤師です。出身は金沢大学薬学部でトランスポーターの研究をされていた辻彰教授のもとで1年間卒業研究として、小腸でのペプチドトランスポーター、ABCトランスポーターの腸管での発現量と薬物輸送活性との相関について研究しました。2001年から京都大学大学院博士課程に入学し、京都大学病院薬剤部で乾賢一先生のもと、免疫抑制剤について研究しました。京大は生体肝移植の中心地で、免疫抑制剤のTDMデータもたくさん集まっており、乾先生からは、「そのデータをポピュレーション解析し、個別化投与設計に役立てなさい」という学位テーマをいただきました。主にタクロリムスについて研究し、同じカルシニューリン阻害剤のシクロスポリンとの薬効の違いについて明らかにすべく、実際にリンパ球内のカルシニューリン活性を調べ論文化しました。学位取得後は、文科省のがんプロフェッショナル養成プラン(以下「がんプロ」)がスタートした時期で、寺田智祐先生ががんプロ大学院生の指導をされていたのですが、寺田先生が副薬剤部長になられた後の研究指導を担当することとなり、抗がん剤の研究に移行しました。がんプロ大学院生の教育・指導とともに、私の研究テーマとして経口分子標的薬を対象とした研究に取り組みました。肺がん治療薬・エルロチニブの血中濃度測定、遺伝子多型の解析等について論文化しました。2013年にはアメリカのノースカロライナ大学に留学しました。財団から2年間の留学助成を得たのですが、主宰教授の指示により1年間で戻ることになりました。研究内容は、主にexvivoでのGWAS(genome-wideassociationstudy)解析でした。CEPH細胞株をいろいろな抗がん剤で処置して、家族3世代トリオ間で抗がん剤に対する感受性が遺伝情報によってどれだけ説明できるかという遺伝率の解析を他大学の先生方と一緒に行いました。この成果についても論文にまとめて発表しています。帰国する際には、京都大学に戻るつもりでしたが、「旭川医科大学へ行ってみないか」とのお誘いをいただきまして、帰国してすぐに旭川に直行しました。旭川医大では新しい分子標的薬としてパゾパニブ、アキシチニコンサルテーションのサポート業務も行いました。卒後21年目に金沢大学に戻ってからは、医学生の基礎薬理学教育を担当しています。現在の研究としては、引き続き、時間治療や体内時計に関する研究、有害反応の克服法開発の他、生活習慣病治療薬のシーズ探索もテーマとしています。臨床薬理学を啓発・普及するためには、もちろん医学生にも授業で話しますが、臨床を知らない段階ではその重要性が伝わりにくく、できれば研修医や若手医師にアプローチしていければな、と思っています。その際には研究がひとつのキーワードとなりますが、最近の若手医師は研究には意識が向かないというか、リサーチマインドがあまり高くはないように感じています。できれば面白い臨床薬理学的な研究を若手医師と一緒にして、その魅力を伝え、臨床薬理学を理解する人を増やしていきたいと思っています。臨床薬理学は自由度の高さが魅力ですが、逆に横断的でもあります。そのため、薬の有用性を明らかにする場合には、各専門領域の先生方が中心となり、臨床薬理学者が主導する形にはなりにくいと思います。一方、有害反応に関しては、各専門領域の先生方も関心は持つものの、「有害反応が出るなら使わなければいい」ということになりがちです。しかし、有害反応を克服できれば、応用範囲が広がる薬もあります。それを示せるのは臨床薬理学者だと思っています。例えば、マルチキナーゼ阻害薬であるレンバチニブは、切除不能な肝細胞がんなどに対して広く用いられますが、しばしば骨格筋障害を起こすことが知られています。私たちは基礎研究でレンバチニブが骨格筋においてカルニチン欠乏をきたすこと、カルニチンを補充すると細胞障害が軽減することを明らかにしました。さらに、臨床においても、レンバチニブで治療していると骨格筋が障害され萎縮してきますが、カルニチンを補充しているとこれを抑制できることを見出しました。今後も臨床薬理学の研究を継続しつつ、大学教員として積極的に臨床薬理学者を養成していきたいと思っています。実臨床にもつながる形で、若手の先生方に研究に興味を持ってもらえたらよいなと思っています。次は福土先生、お願いします。74座談会

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