50年のあゆみ
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第一部 現在までの臨床薬理学との 関わりと今後のプラン臨床研究とともに学部教育などを通じ若手に魅力を伝えたい研究サポートとともにプレイヤーの立場を大切に研究展開乾 直輝 氏『ClinicalPharmacologyandTherapeutics(CPT)』に発表できました。2009年の研究は薬物相互作用の観点から抗結核薬のリファンピシンに注目し、リファンピシンによる酵素誘導が消失していくフェーズにフォーカスを当てました。こちらもCPTに掲載され、それ以後、薬物代謝酵素や遺伝子多型、薬物相互作用の研究を継続しています。また、直近の10年は研究サポートとともに、実際に臨床研究を行うプレイヤーの立場も大切にし、臨床研究も行っています。特にがん治療の有害反応である抗がん剤による悪心、嘔吐、つまりCINV(Chemotherapy-inducednauseaandvomiting)の予防法開発について研究してきました。私自身は今も呼吸器内科で肺がん患者さんの診療をしていますが、多くの患者さんがこのCINVで困っていることが研究の出発点です。2017年からはカルボプラチンによるCINVに対して、非定型抗精神病薬であるオランザピンを使うPⅡ試験、2019年からPⅢ試験を実施し、2023年に380人を登録し試験を完了しました。2024年6月には、その結果を『JournalofClinicalOncology(JCO)』に掲載できました。この研究も財団の助成をいただきました。〈安藤〉金沢大学の安藤です。出身も金沢大学ですが、学部卒業後すぐに内科医局に入局、内科系大学院に進学し、基礎研究と臨床研究に取り組みました。その後、ポストドクターとして自治医科大学臨床薬理学部門に国内留学し、そこで初めて臨床薬理学の存在を知り、非常に重要な学問だと認識しました。基礎研究として新規ABCトランスポーターの機能解析をしました。私も財団から二度、2003年と2009年に研究助成金をいただきましたが、最初のテーマがこのABCトランスポーターA8の研究でした。また、内科のサブスペシャリティとしてはホルモンの日内リズムに魅せられ内分泌代謝領域を選択したところ、ちょうど自治医科大学臨床薬理学部門主宰の藤村昭夫教授の主要テーマが時間治療でしたので、体内時計の研究にものめり込みました。3年でいったん母校に戻りましたが、2年後に自治医大からお誘いを受けて移りました。その後、自治医大には9年ほどいて学部生の臨床薬理学教育、臨床薬理学に関係する基礎・臨床研究、特に藤村先生の主要テーマである時間治療と厚労科研費によるトキシコゲノミクスの研究を中心に取り組みました。一方で、臨床研究の倫理審査や事前審査、妊産婦の薬物治療〈安藤〉臨床薬理学は研究だけでなく教育や臨床も含まれ、臨床のなかにはサポート業務もあります。今回、日本の臨床薬理学領域において第一線でご活躍され、かつバックグラウンドが異なる先生方にお集まりいただきましたので、多角的に討論できると期待しています。まず、前半は自己紹介を兼ねて、現在までの臨床薬理学への関わりと、今後のプランについてお話しいただきます。それを踏まえ、後半では日本、そして世界の臨床薬理学をどうしていくべきか、将来展望についてディスカッションしていきたいと思います。初めに乾先生からお願いします。〈乾〉浜松医科大学臨床薬理学の乾と申します。私は1993年に医師になり、内科、特に呼吸器内科を中心に研修を重ねた後に、大学院や海外で研究に従事し、2005年から浜松医科大学の臨床薬理学講座に所属しています。約20年間、臨床薬理学と関わっていることになります。今回の座談会は私自身にとっても振り返りの良い機会となり、財団の方にはお礼を申し上げます。臨床薬理学は、「薬物の人体における作用と動態を研究し、合理的薬物治療を確立するための科学」ですが、「基礎を踏まえた上での臨床」という立ち位置が非常に良いと感じています。私は基本的に臨床の立場からの発言となりますが、臨床薬理学のアドバンテージは、どの領域、どの疾患、どの薬も対象にできる研究や診療の自由度の高さにあると思います。さまざまな診療科の先生方に臨床薬理学という領域に参加いただけるわけですが、逆にその利点がデメリットにもなり、専門性を追求する観点では若干弱みになる場合もあるかと思います。臨床薬理研究振興財団(以下、「財団」)には研究奨励金制度がありますが、私は2005年と2009年にこの奨励金をいただいています。2005年は、薬物代謝酵素の遺伝子多型と抗がん剤のPKおよびその薬効に関する研究で、その結果は73

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