50年のあゆみ
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自然治癒力を踏まえた治療効果の構造を理解すべき5.座談会のまとめ〈中野〉皆さんのお話をお聞きしていて重要だと思うことは、65歳以上の人のパーセンテージ、いわゆる高齢化率が現在は30%ぐらいですが、2050年には40%以上になることが予測されています。高齢者が増えると医療機関を受診する人が増えますが、薬物を服用する人も増えます。結果として、高齢者のポリファーマシーや薬物の副作用の問題が切実になる可能性があります。したがって、新しいより良い医薬品の開発の努力を続けていくことは欠かせませんが、同時に、医薬品の合理的な使い方を普及させていくことが、今まで以上に重要になってくるように思います。また、在宅医療も増えると思いますので、在宅医療の中での臨床薬理学や、進化の目覚ましいAIとの協働のしかたも重要な課題になってくるように思います。特にAIが人よりも優れている領域はAIを有効に活用して、人の方が優れている領域に人の力を集中して使うようにして、AIと上手に協働していくことが臨床薬理学や治療医学の発展のためにもますます重要になってくるように思います。それから、薬物治療の効果は薬物だけで決まるのではなく、生体側の生理機能の健康度に依存する部分が大きく、私の専門としている抗不安薬や抗うつ薬の領域では、薬物に起因する部分は約25%で、残りの約75%は生体側の回復力(自然治癒力)と狭義のプラセボ反応といった非薬物要因により影響を受けることが分かっています。薬物治療の効果の中で占める薬物要因と生体側の非薬物要因の影響の比率は、疾患と薬物によって異なりますが、薬物治療の効果を構造的に理解することが合理的な薬物治療を普及させていくのに役立つように思います。医薬品の開発の段階で被験者となる患者さんの協力が必須であるように、市販後医薬品の有効かつ安全な使い方を普及させていく際にも患者と医療者の良きパートナーシップが必須になってくるように思います。臨床薬理学には、治療医学のエッセンスがたくさん詰まっています。次の世代の人たちが、この魅力的な領域を今後ますます発展させていっていただくことを祈念しています。〈渡邉〉本日はありがとうございました。臨床薬理内科教授の乾直輝先生がJCO(ジャーナル・オブ・クリニカル・オンコロジー)という雑誌にファーストオーサーとして論文掲載されましたが、そういう活動を他の医師に見てもらう。臨床薬理の専門家が臨床試験を率い、しっかり結果を出すことで、臨床薬理はより発展していくと期待しています。〈平井〉少し違った視点ですが、今は産業医が人気だそうです。その産業医の先生方に臨床薬理の教育をして、臨床薬理的なセンスを持った上で、藤村先生のお話にもあったように、今後増えるメンタルヘルスに対応することも重要だと思います。すでにメンタルヘルスへの対応は産業医の主たる仕事になっていますので、そういう方々に臨床薬理の知識・素養を持ってもらうことが大事だと思います。〈中野〉実は、各学会の専門医の試験の中に臨床薬理学の項目を入れてもらおうという活動は、臨床試験医師養成協議会(PECJCT)で行っています。その必要性を各領域に浸透させていく努力は欠かせないと思います。〈家入〉昔に比べると臨床薬理という言葉自体は出しませんが、皆さん、臨床薬理のセンスを持つようになったと思います。〈中野〉そういうセンスを持つ方は広がっているように思います。治験に対するイメージも大きく変わりました。昔は日陰の存在で、一部には患者さんを犠牲にして、医師が勝手なことをしているようなイメージを持つ人もいましたから。〈家入〉今では病院のいわば稼ぎ頭とも言えます。〈中野〉治験の重要性に対する認識も広く普及してきましたね。〈渡邉〉ありがとうございました。最後に中野先生から、まとめのお言葉をお願いします。71

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