50年のあゆみ
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治療学の重要かつ基本的な考えである「臨床薬理学教育」が重要ですから繰り返しにはなりますが、臨床薬理学は治療学の非常に重要かつ基本的な考え方ですので、若い人たちにはがんばっていただきたいと思います。〈家入〉ポリファーマシーの研究も実際には進んではいますが、簡単には解決できない課題があります。例えば2種類間であれば分かりやすいのですが、5種類になると難しくなります。その研究が薬物療法においてどこまで役立てられるのかというと、見えにくい部分もあります。中野先生の図でいうところの上の段のサイエンスとしては、いろいろな方が研究をしておられますが、なかなか難しいところです。〈渡邉〉病気や患者さんなどケースによっても違ってきますね。〈中野〉私は若い頃から市民講座などで一般の方向けに薬の使い方を講演してきました。私自身は今もそうですが、自分では薬を必要としていません。毎年人間ドックで健康状態をチェックしていますが、薬を必要とするというところまでは至っていません。日常で何らかの症状が出ても、もし医者に行ったらどんな薬が出るか考えるとだいたい想像がつきますので、とりあえずは食生活や身体活動などの生活習慣を見直して自然治癒力がどの程度のものかと観察していると、自然と治ってしまうことが多いのです(笑)。ともあれ、薬の使い方はとても重要なテーマですが、その前に、自分の健康は自分で責任を持つという意識が大事だと思っています。そういう意識の高い人に薬を使うと、よく効きます。生体の機能が正常に働いている状態のもとで薬の作用も出やすいわけですから、薬物の側からだけ考えていたら、薬物治療学は健全には進展していかないように思います。〈渡邉〉薬を使い続けるには、しっかりした根拠が必要ということですね。〈中野〉米国の臨床薬理学コースでは、最初に「本当にこの患者に薬が必要なのだろうか」ということを検討させられていました。まず、その点を考えることが重要だと思います。〈渡邉〉藤村先生ご意見ございますか。〈藤村〉私も最近までポリファーマシー症例に関わっていましたが、薬を切るのはたいへんでした。例えばリウマチの患者さんでは、メトトレキサートなど絶対必要なものを除いて全部切りました。その後、痛みが出てくればNSAIDを1つ加える。しかし、考える必要があるように思います。今は厚労省がポリファーマシー解消に向けて薬剤師にチェックしてもらうことを推進していますが、本来は医師が処方する段階でチェックすべきことだと思います。〈平井〉その意識はぜひドクターに持ってもらわないといけませんね。私は医学部の3年生にポリファーマシーの講義をしています。学生さんに「薬を使いたいですか?」と聞くと多くの学生が「使いたくない」というのですが、医師になったら皆、薬を使う。このギャップはどこから来ているのだろうかと考えるのですが、個人的に思うことは、おそらく24時間、患者さんを看ていられれば薬は無くてもよいのかもしれません。しかし、看ていない時に何かあったら困る。だから薬を出さないと不安なのではないかと思います。もちろん24時間じっと看ていることは不可能で、それを埋めるのが他職種だということをもっと認識してもらう必要があると思います。そのことが医師の働き方改革にもつながると思います。〈中野〉日本人は、薬を欲しがる人が多いですよね。単に薬理作用を期待してだけでなく、病院や医師とのつながりという心理的な側面もあるように思います。また、前の医師の処方を中止しづらいのは心情的には分かりますが、お互いにもう少しサイエンティフィックに考えるようにしたいと思います。その根本的な教育については、臨床薬理学者が背負わなければならないように思います。〈渡邉〉臨床薬理学講座がある大学では、そのような教育や講義がされていると思います。例えば、外科医は自分の技量によって患者さんを傷つけてしまう場合があり、最悪の場合は死に至らしめる可能性があることを認識しているからこそ、自己研鑽し、その技量を磨いています。内科医も薬を選ぶ、処方することは、外科医のメスと同じです。学生には、処方内容によって、時には人を傷つけてしまうことを認識することの重要性を伝えています。〈中野〉まず、この患者に本当に薬が必要なのかどうか。必要ならば何を選ぶか、至適投与量や使い方はどうするのかというステップを踏んで判断できるようにする。それを治療学講義の核心にするべきことだと思います。今は、それができてないため、先輩がしていることを見習って対応し、いつ服薬を中止させたらよいかの判断できていません。その結果として、患者と薬剤師にしわ寄せが行っているような気がします。69

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