現場感覚も含めポリファーマシー対応は大きなテーマのひとつCRC、看護からの臨床薬理学へのアプローチについて討論する家入氏と森下氏4.次世代の臨床薬理学研究者への期待・メリット創造についてで自信を持って止めることができない、ということもあるでしょう。厚労省としては、多職種連携で対応しましょうという話にはなりますが、現実は、まだ医療現場に権威勾配みたいなものがあって、本当の意味での多職種連携は難しいのが現状です。今は、例えば老年科の先生方が中心になっていますが、臨床薬理というもう少し広い視点から関わることで、もう一歩、ポリファーマシー対策が前に進むのではないかと思います。〈渡邉〉同感です。アメリカでのメタアナリシスでは薬物有害事象での入院率が高く、死亡率も高いと出ています。昨年スイスから出た論文でも、薬物有害事象での入院率が高いと発表されています。このことは決して侮れない重大な事実です。学生にも講義していますが、最終的には薬物治療とは必要な薬を、必要な人に、必要なだけ提供するということで、それを守ることが基本です。〈家入〉薬学の人間は、どちらかというと処方の中身のチェックより、投与量や用法に重きを置いています。医師は薬を選択し処方を書きますが、薬剤師はその選択に関しては弱いところがあります。病棟では、「これに変えた方がよい」とは言いますが、外来では多分できないと思います。〈渡邉〉薬剤師からの情報は私たち医師にとって非常に重要で、有益です。薬剤師からの情報提供を含め多剤併用療法を洗練させていくことは、医療安全の面でも、臨床薬理学の新しい領域です。ぜひ、進めていかなければいけないと思います。〈中野〉医学部教育は今でも診断学に重心が置かれています。病気の診断ができなければ治療はできないので正論なのですが、私の若い頃は「治療学は卒業してから学べ」という状況でした。したがって医学部教育には体系立てた治療学が、まだ十分育ってはいないように思います。この点では臨床薬理学の専門家の出番でもありますね。さらに言えば、薬の使い方の研究は過去にされてきましたが、中止の仕方の研究はあまりされていません。処方集を見ても、薬の使い方は書いてありますが、止め方は書いてありません。臨床現場で今まで使っていた薬を止めるという判断は難しいし、そのための研究も簡単にできるものではないと思いますが、今後の課題でしょうね。〈渡邉〉患者さんに話を聞くと、「実は飲んでなかった」ということもありますね。〈中野〉患者さんが自分で微調節をしたり、症状が良くなったから飲まなくなったりしても、それでも結果的に良かったとはいえますが、医師が投薬中止の判断はしていないことが多いと思います。そのことは基本的に医学教育でも核心に触れるところだと思いますので、薬物治療のあり方をもっと真面目にはございますか。〈森下〉目の前の問題として2050年には病院の数は、どこまで少なくなるのだろうかと懸念しています。地域包括ケアシステムを推進していくなかでこれから施設数が減少し、在院日数はさらに短くなると思います。今の診療報酬体系も、なるべく在宅に戻すという方針が読み取れます。地域や在宅に戻った時にどういう薬物治療の姿がよいのかというと、医師、看護師、薬剤師のあり方にもつながります。いわば薬物療法の中心が病院から在宅へと移行するなかで、臨床薬理学がどのような形で貢献していくべきか検討が必要だと思います。〈渡邉〉臨床薬理は横断的で、かつ重要な医療の根っこの部分にある学問です。いろいろな診療科が関わる高齢者におけるポリファーマシー問題については、臨床薬理をベースに最適な治療計画・提案をしていく必要があると思います。〈平井〉私が以前から関わってきたテーマとして、高齢者薬物治療におけるポリファーマシー是正があります。高齢者はマルチモビディティ(多病状態)で、症状に合わせて薬がどんどん増えていきます。臨床薬理外来はまさにポリファーマシーの改善が焦点で、先ほどの中野先生のお話では、老年病科で対応していたというのは非常に象徴的だなと思いました。入院した時に、例えばそれまで飲んでいたお薬を全部やめ、その途端に元気になったとかいうこともありましたが、今の処方医にはなかなかできません。いわゆる前医の処方に手を付けてはならない、という不文律みたいなものがあります。また、昔の偉い先生なら「俺の処方にケチをつけるのか?」ということもあり、さらに若い医師では、経験が少ないの68座談会
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