50年のあゆみ
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地球温暖化を含めた変化に応じ臨床薬理の担当領域も多様臨床薬理学教育に求められる課題について語る平井氏1850年では280ppmでしたが、2019年には410ppmと増えていることが課題です。2つ目は平均気温の上昇ですが、2050年に1.5℃を突破すると予測されています。その影響として第一に作物ができない、魚が取れない、感染症が蔓延化する、熱中症になる、さらにメンタルヘルスに問題が出てくるなどが指摘されています。わが国では2050年に人口が9,500万人とピーク期に比べて3000万人以上減り、しかも高齢人口が39.6%になる。絶対数としても若年人口が非常に減少します。したがって、2050年にはわが国の疾病構造も変化することは間違いありません。これに対して臨床薬理はどのようにするかというのがひとつ問題になります。臨床薬理がカバーする領域も違ってきます。また、食料不足とともに気温の上昇、二酸化炭素量の増加により、タンパク質や微量原子、亜鉛などが減り、食料としては非常に質の悪いものになりますので、そうした食環境のなかで医療がどう向き合うかは大きな問題です。このほか難民の流入が日本を含めアジア太平洋地域でも考えられます。その場合、多様な感染症を含め多くの疾患が持ち込まれます。併せて、COVID-19、マラリアなど感染性疾患と非感染性疾患が今より増えてきます。非感染性疾患で一番懸念されるのはメンタル系の疾患です。暑くなることによって認知性が落ちて、メンタル系の疾患が増えていることも報告されています。適応策としては気候の影響を受けやすい疾病に関する保健医療プログラム、保健医療システムの強化が必要です。ただ、2050年において今の医療・介護保険制度が存続するかどうかは分かりません。このように2050年には地球温暖化の観点からもいろいろな問題がありますが、長期的な視野をもって臨床薬理学の将来を考えることが大事だと思います。日本では特に人口構造が大きく変化し、一方でAIが社会に浸透する状況も想定すべきでしょう。高齢者医療を含め医療制度の持続性問題、複数診療科を受診する高齢者の増加に対する多剤併用薬物療法の至適化などは、臨床薬理学が担当すべき大事なフィールドだと考えます。結果として起こる健康被害に対し、臨床薬理の立場から対応していくことが重要だと思います。〈渡邉〉特にメンタル系疾患、感染症問題は臨床薬理の視点から考えていかなければいけないと思います。国民皆保険制度の存続という難しい問題もありますが、目の前の患者さんに対しては高額な医薬品であっても最善の治療を尽くしたい一方で、それによって集団としての医療が維持できなくなるのは問題です。個の治療と集団の医療のバランスポイントをどこに取るのかという点は、経済的な状況や疾病の特性によっても変わってくると思います。ご意見〈森下〉看護のなかではインシデント要因のトップは誤薬ですから、そういう時にはもっと薬剤師に頼ればよいのにと思いますが、現実にはなかなか難しい面もあります。本当に余裕がないのだと思います。看護師としては、医師と薬剤師とがきちんとコラボレーションしてくれていれば、どちらに相談しても大丈夫という環境になると思います。〈中野〉今後10年もすれば状況は変わると思いますが、臨床薬理学を目指す人は目的を共有していますので、医師と薬剤師はもっと密に話し合う機会をつくりましょうと言いたいですね。〈平井〉業種に関係なく臨床薬理の視点では共通の話はできると思います。医学教育では10年以上前から、多職種連携の教育をしています。そういうなかで若い医師は薬剤師を含め他職種と隔たりなく話をしていると思います。あと10年したら、もっと現場は変わってくると思います。〈中野〉そういう状況が日本中に広がれば医療がより良くなると思います。〈平井〉患者さんの意識も少し変わってきたと思います。約10年前は、とにかくお医者さんに言われたとおりという感覚でしたが、今はコメディカルの話も、ちゃんと聞いてくれるようになってきました。〈渡邉〉ありがとうございました。もう少し将来の臨床薬理学について踏み込んでいただきたいと思います。〈藤村〉私から将来というか、地球温暖化という大きな観点から2050年に向けた臨床薬理学に触れたいと思います。まず基礎情報ですが、2015年に国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)、いわゆるパリ協定により、世界共通の長期目標として、産業革命以前に比べて、地球の平均気温上昇を1.5℃に抑える努力を継続すると決定されました。ただ、2023年のIPCC第6次評価報告書では、二酸化炭素の排出量も増加している。産業革命以前の67

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