50年のあゆみ
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社会とのつながりのなかで 「学会」の意義や役割を実感薬の承認に至る一連の経験を 踏まえ臨床試験の大事さを再認識最終的には公知申請で承認が得られました。浜松医大でのデータが核になり、公知申請の際の学会からの要望書も私が作成しました。ひとつの薬の臨床研究から承認に至るまで関わった経験を通じて、改めて臨床試験の重要性を認識しました。同時に、制度上の問題点も自覚しました。つまり、医師が新薬の承認を目指しても、なかなか実現は難しい事が分かりました。ちょうどそのタイミングで上田慶二先生が、医師主導治験の枠組みづくりのための厚労省の班研究を率いており、私も加えていただきました。その研究は、景山先生に引き継がれ、その後を私が担当することになりました。その流れの中で医師主導治験の体制が整備されてきたと思います。一連の経験を経て、臨床薬理学のミッションのひとつである臨床試験を通じた医薬品開発を実現する上でも、レギュラトリーサイエンスの重要性を認識して活動しなければいけないと感じました。私の研究班には国立病院機構の楠岡英雄先生、国立がん研究センター東病院の大津敦先生、森下先生にもご参加いただき、ご協力いただきました。臨床試験現場では「リスクベースド・アプローチ」の概念が注目されますが、この概念の普及にも努めました。研究成果を厚労省の発出する文書、通知に取り込んでいただくという活動も臨床薬理学の大事な仕事であると認識しています。臨床研究中核病院が全国に整備されてきましたが、重要なのは、医療法上に日本発の革新的医薬品・医療機器を創り出すことが臨床研究中核病院のミッションとして位置付けられていることです。医師の病院でのミッションには診療とともに新たな医薬品や医療機器、医療技術の開発も含まれることを示しており、この取り組みは医療者のマインドセットを変える非常に大きなことと捉えています。〈平井〉お話を聞いていると、臨床薬理とレギュラトリーサイエンスとは、非常に近いところにあると思います。臨床薬理の成果等を実社会に活用するには、制度や法律との兼ね合いを、どう整理していくかが非常に重要だと思います。〈森下〉社会とのつながりという意味では、ちょうど渡邉先生が理事長、私が認定CRC制度委員長の頃、某民放のテレビドラマでCRCに対して少しネガティブな印象を持たせるような取り上げ方をされたことがありました。ドラマに取り上げられたのはうれしかったのですが、世間的には誤解を招くような役柄で、とても残念に思っていました。その時、「薬物動態の専門的知識を有する臨床薬理学の専門家」という文言を入れてほしいと陳情しました。その時に実は「臨床薬理学って何ですか?」「どういう学問ですか?」と言われたことを思い出しました(笑)。〈渡邉〉それでも理解してくれたからこそ、文言が入ったと思います。私も、そういう社会的活動は必要だと思います。〈渡邉〉私の場合は先ほど申し上げたように、元々、循環器内科医で臨床医ですが、基礎研究も好きでした。特に留学している時には夢中で基礎研究に取り組み、細胞を対象に緻密に研究計画を立て、いろいろな角度で検討し、さまざまな結果から総合的に結論を導き出していました。ですから、当時の臨床研究の印象は、患者さんを2群に分けて、プラセボ投与群と実薬群で比較して結果を求めるという、基礎研究から見たら繊細さに欠けた雑なことをしていると思ってました。しかし臨床薬理学に異動してからは、おのずと人を対象とした臨床試験に深い関わりを持つようになりました。臨床薬理学講座に異動した頃、ちょうど基礎研究から得られた成果を基に、肺高血圧症の人にバイアグラ(シルデナフィル)が効くのではないかと考えていました。肺動脈性高血圧症(PAH)は希少難病ですが、一人の重症PAH患者さんを紹介され、そこでその仮説を検証する臨床試験計画を立て、臨床研究審査委員会の許可を得て、研究を進めました。実際に使用すると自覚症状の改善も顕著で有効と思われました。一例目の被験者から「階段を上る際の息切れがひどくなっており不安を感じていたが、シルデナフィル内服後は息切れもなく、子どもと道を駆け足できた」というメールもいただき勇気を得て、2例目の患者さんにも取り組むことができました。この臨床研究の結果はアメリカの心臓病学会でシルデナフィルがPAHに有効であることを示す最初の臨床報告となり、その後、CPT誌に論文を発表しました。当時は医師主導治験というトラックがなかったので、承認を得るためには製薬企業に治験の実施をお願いするしかありません。何度もお願いしましたが結果的には企業は動いてはくれませんでした。研究会や学会で臨床研究の結果を発表していたところ、医療系の新聞社の方が興味を持ち記事にしてくださり、浜松医大でPAHの臨床試験をしていることが紹介されました。その後、他機関の医師も、浜松医大と同じプロトコールで臨床研究をしてくださり、64座談会

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