振り返れば「必要な人に必要な薬を必要なだけ」に向け活動薬物療法、治験と臨床薬理学との関連について討論する家入氏と森下氏〈平井〉私自身は、大学病院に赴任した2007年頃は治験に関わり、治験推進のための教育システム構築にも関わりました。それが文部科学省のGPに採択され、3年間の予算の中で治験の基本的なことを解説するビデオも制作しました。当初、大手広告代理店に見積もりを依頼したところ600万円かかると言われたのですが、それではすべての研究費を費やすことになってしまうため、元広告代理店出身の方に依頼して、格安で請け負っていただきました。経費を抑えるため大学病院のCRCのベテラン看護師に出演してもらい、治験担当医師の役は内科のドクターにお願いしました。患者役としてプロの俳優さんも来たのですが、そのドクターの演技がうま過ぎてびっくりされていました(笑)。内容的にランダム化比較試験やプラセボというよりは、全体的な治験の流れをまとめました。薬剤師の仕事は薬物治療の有効性と安全性の確保ですが、その頃、分子標的薬の登場とともにコンパニオン診断薬で、患者さんの遺伝子多型を見て抗がん剤を選択するという動きが始まりました。そういったなかで私たちは、ワルファリンの投与設計と代謝酵素の遺伝子多型について研究しました。兵庫県三木市には、ある特定の遺伝子多型を持つ集団があり、心疾患の方へのワルファリン投与量を決める際に遺伝子多型が影響するということで、三木市の病院の循環器内科先生と私たち大学病院とで共同研究しました。また、抗がん剤の副作用と遺伝子多型の関係性からヒントを得て、向精神薬の副作用と遺伝子多型の関係性について検討しました。その研究は私が大学病院をやめてから、精神科の先生が論文として出してくださいました。〈家入〉当時は未だ病院薬剤部で学問的研究ができる施設は少なかったと思いますが、平井先生は病院側に反対はされなかったのですね。そういう意味では神戸大学と東京大学、九州大学の先生方がリーダーとして、薬剤部での研究を引っ張ってきたと思います。〈渡邉〉平井先生は、あまり臨床薬理のことは関わっ企業の協賛は得られませんでした。ただ、ホロファイバー自体にいろんなトランスポーターを埋め込むことはできると思うので、現在の血液透析よりも非常に優れた人工腎臓がつくれると思います。今、研究自体は残念ながらストップしていますが、臨床応用の可能性はあると思っています。P糖タンパク質の話をしましたが、実はトランスポーターとしてはOAT3も培養しました。OAT3にはさまざまな基質がありますが、ひとつは動脈硬化を促進するインドキシル硫酸を除去します。インドキシル硫酸というのは普通の透析では抜けませんが、同システムで調べるときれいに抜けてきたのです。しかし、ある程度大きくなると除去できないので、そこまでとしました。いずれにしても、私が主宰している時の臨床薬理学講座は、とにかく安全な薬物療法を確立し、それを実施するということに努めました。〈渡邉〉どうもありがとうございました。先生は非常に多くの著作物を通じて安全な薬物治療の推進に貢献されて来られました。ところで当時、第一相試験の実施場所は大学の中だったのでしょうか、あるいは大学外部でしたか。〈藤村〉当時はシステムが整っておらず一般病院で第一相臨床試験を行いました。他に、製薬企業関係の診療所でも行いました。〈家入〉第一相試験は薬の飲ませ方も、採血時間や蓄尿など時間設定の仕方など、プロトコールは厳しいですが、当時も同様でしたでしょうか。要するに製薬企業が必要とするデータですから、本来だとGCPに則って行われますよね。〈藤村〉1992年のことなので、できるだけということだったと思います。〈中野〉新GCPの完全実施が1998年以降ですから、その前は今のようには厳しくはなかっただろうと思います。当時は、今のようなデータの品質管理(QC)や品質保証(QA)がありませんでしたので。〈渡邉〉今では製薬企業の診療所を実施場所とするのは、倫理的な問題もあり、無くなりましたね。〈中野〉日本では製薬企業が運営する施設での実施は、データの質の管理がルーズになることを避けるため、認めないことになりました。かつては、いくつかの製薬企業が施設を持っていましたし、海外では製薬企業が持っている例もありました。新GCP以降は、日本の臨床薬理専門医療機関の質は高くなっていると思います。〈渡邉〉平井先生お願いします。62座談会
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