50年のあゆみ
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「安全な薬物療法の推進」を基に研究・教育・臨床を展開平井氏と談笑する藤村氏『薬のしおり』は広く使われていると思います。次に、臨床での到達目標は適切な薬物療法の実践としました。これは病院の中に設置された臨床薬理センターの業務として位置付けました。業務内容はTDMコンサルテーションが主でした。自治医科大学では生体肝移植が非常に盛んに行われ、術後の免疫抑制薬や抗菌薬を適切に使うため毎日TDMを行い、年間700から800件を数えました。2つ目は妊産婦と授乳婦に対する薬物情報提供です。精神科からも依頼があり結構な件数になりました。この他治験以外の臨床試験の事前審査を行っていました。次に研究の目標と到達目標は、安全な薬物療法を確立することです。基本的には動物実験を行い、臨床にフィードバックするスタイルです。研究テーマは大きく4つあり、1つは時間治療学です。同じ薬でも服薬時刻によって有効性、安全性が大きく異なることを考慮した薬の使い方で、現在も臨床の場で実践しています。2つ目はトキシコゲノミクス研究です。その当時、DNAチップが使えるようになり、われわれも複数の網羅的遺伝子解析の安全性バイオマーカーの抽出と検証をしています。3つ目は薬物相互作用の研究です。特に薬物と食物の相互作用について健常成人を対象に検討しました。4つ目としてハイブリッド型人工腎臓を作成しました。薬物中毒の時、通常、血液透析法が用いられますが、必ずしもうまくいかないことがあります。血液透析には非常に細い中空糸を用いますが、われわれはその中空糸の外側にトランスポーターを過剰発現させた尿細管細胞を培養して、トランスポーターの基質が特異的に作成できるかどうかを検討し、成功しました。具体的には、P糖タンパク質を発生させた尿細管細胞を作成して、ホロファイバーの外側に対応し、ジゴキシン中毒系においてジゴキシン中毒の治療に非常に有効であることを明らかにしました。このP糖タンパク質の基質となるものは非常にたくさんありますので、それらの中毒治療に使えます。他のトランスポーターの基質を培養すれば、対応する治療もできるのでシステム自体の特許が認められました。ただ、尿細管細胞を培養する、いわゆる「生もの」を扱っているため、残念ながら2,000人を超えました。2010年に第10回記念大会を再び別府で開催しましたが、これを機会に育ってきたCRCの方々に会議代表をお願いする方向に舵を切りました。実際には2012年の第12回から、当時、聖路加国際病院のCRCだった石橋寿子さんが、勇気をもって会議代表を務めてくださいました。以後、毎年CRCの方が会議代表を務めてくださるようになっています。参加者が急激に増えたこともあり、会議代表を務めていただいたCRCの方々は、運営が大変だったと思います。しかし、2020年の第20回からは「一般財団法人 臨床試験支援財団」が運営委員会を開催して支援するシステムに変えましたので、会議代表の負担はかなり軽減しただろうと思います。森下さんは第15回の会議代表でしたね。その頃が一番大変だったかもしれません。〈渡邉〉一方、中野先生のライフワーク的なテーマのプラセボについては、臨床薬理研究振興財団主催の臨床薬理学集中講座にも活かされているように思いますが。〈中野〉そうですね。薬物治療の効果には非薬物要因の影響が相当あります。非薬物要因をうまく組み合わせると、服用する薬を減らせる可能性が出てきますので、臨床薬理学集中講座の課題として、今後も取り上げていきたいと思っています。振り返ってみると臨床薬理学集中講座の第Ⅰ期が始まったのは1997年ですが、新GCPを普及定着させたいということもあって「新GCP普及定着総合研究班」に参加したメンバーの方々が、全体の半分近い項目で講師を務めてくださいました。〈渡邉〉ありがとうございました。続いて藤村先生、お願いします。〈藤村〉まずは研究面ですが、先ほどもお話ししたように海老原先生が講座主任の時代には、主に健常成人を対象とした第一相臨床試験をしていました。また、1994年に私が講座主任になり、何を講座の目標にするかを考えたのですが、結局は「安全な薬物療法の推進」を主テーマにしました。そのため教育の到達目標は、薬の適正使用法の普及とし、医学部4年生に対する講義を行ってきました。また、RAD-AR協議会(くすりの適正使用協議会)の依頼を受け、『薬のしおり』のプロトタイプを作成し、その有用性についても評価いたしました。当初、よく使われている10何種類の薬をピックアップして作り、その後はRAD-AR協議会で工夫を重ねて現在に至っていますが、幸い、現在も61

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