50年のあゆみ
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渡邉裕司 氏し浜松医科大学に入局し、大学院や留学を経て、診療も研究も非常に充実した時期に本学に臨床薬理学講座が誕生しました。ちょうど循環器内科の隣の講座が薬理学でして、先ほどお名前が出た中島光好先生が教授として臨床薬理をメイン領域にご活躍されていました。その中島先生のお力があって、製薬協の寄付講座として浜松医科大学に臨床薬理学講座が新設され大橋京一先生が初代教授として着任されました。私が入職してから10年目ぐらいですから、1993年だったと思います。当初は「そんな講座があるんだ」という程度にしか認識していませんでした。その後、それまでの5年間の寄付講座の活動が評価され臨床薬理学講座が正式な臨床系講座として文部科学省から認可され、新たに助教授の募集をしていると知りました。当時、私は内科の医局長でしたが、学生時代はなじみのない臨床薬理学という領域に興味を持ち、しかも臨床系講座だと知り、大橋先生にお話をうかがいに行きました。そこで薬効評価など循環器とも関連が深い分野横断的な学問領域だと分かり、お世話になることになりました。一番恵まれていたのは、初代教授の大橋京一先生の理解があり、研究や診療も自由にさせてくださったことで、今でもたいへんありがたく思っています。1998年に内科から臨床薬理学講座に異動したのですが、そもそも臨床薬理学のことを知らないので、この分野で有名なスウェーデンのカロリンスカ研究所に見学に行きました。2週間と短期間でしたがFolkeSjöqvist先生のところで研修機会を得て貴重な経験になりました。その後、ヴァンダービルト大学のJohnOates先生からも実際に講義を受けるなど、海外の著名な臨床薬理の先生方から教えを乞う機会をいただきました。また、大橋先生が毎年「浜名湖セミナー」を開催されており、セミナーには中野先生、藤村先生、小林真一先生、川合眞一先生、景山茂先生や石崎高志先生など多くの臨床薬理学で活躍される先生方が参加されていました。大橋先生は群馬大学のご出身で、その先輩にあたる石崎先生は国際医療センター(現・国立国際医療研究センター)の臨床薬理部門を担当され、研究にも精力的に取り組んでおられ、セミナーでの積極的な発言が印象的でした。そうした先生方のお話を伺い次第に臨床薬理学の魅力を認識するようになりました。特に臨床薬理学の魅力的な点は、個別化治療を推進するため薬物動態等のいろいろな情報を得て、その情報の意義を理解し、実臨床の場で活用できること、さらに臨床試験をデザインしたり、新たな医薬開発やレギュラトリーサイエンスなど専門性を活かして関わる範囲が広く、それだけに自分に向いた活躍の場を得られるということです。今では臨床薬理に関わることができたことに心から感謝しています。海外では臨床薬理学が臨床薬理内科として内科の診療部門に位置付けられています。例えばハイデルベルグ大学では7つの内科外来部門がありますが、そのひとつに臨床薬理内科があります。アメリカのヴァンダービルト大学でも臨床薬理は内科部門として根付いています。海外での臨床におけるこのような位置付けに感心し、浜松医科大学附属病院でも内科の一診療科として臨床薬理内科を開設してもらいました。浜松医大の臨床薬理内科は外来とともに、患者さんは多くはないのですが病棟も設置されています。少なくとも浜松医科大学では、臨床薬理内科は病院職員の間でなじみのある分野になっており、認知度の向上という点では良かったと思っています。海外ではNIHの臨床薬理専門病院や新しい医療を受けるための病院もあります。今後、そのような病院が日本にもできるとよいと思います。〈中野〉先ほどから懐かしい方々のお名前が出てきましたが、私が臨床薬理学を始めた頃は、日本に臨床薬理学の講座がまだありませんでした。自分たちが将来どういうポジションを得て仕事が続けられるかは、全くわかりませんでした。そのような状況のなかで、大分医科大学に臨床薬理学講座が臨床系の中に位置付けられてきたことは、画期的なことでした。先ほど藤村先生が言われましたが、内科の並びに「臨床薬理センター」があり、その表示の下に「老年病科」との記載がありました。海老原先生の時代には高血圧の高齢者を診療しておられたのでそれでよかったのですが、私の時代になってからは、薬物療法を行う全診療科の患者のコンサルテーションを行うようになりましたので、「老年病科」という記載を外してもらいました。私は若い時に心身医学の認定医と指導医になっていましたが、当時の大分医大には心身症の専門家がいなくて診療上も教育上も困ることがあるので、臨床薬理学だけでなく、心身症の診療もしてほしい、学生の教育上も必要だからと、学長と病院長から強い要請があって、「臨床薬理センター」の中に「心身症外来」を設置して心身症の診療も行うことになりました。各診療科で困っている患者が紹介されるようになったのですが、薬の合理的な使い方のコンサルテーションというよりも、患者の話をよく聴くことが効果的な場合が結構ありました。そこで生まれたのが「聴くは効くに通ず!」という言葉です。このような経験が、その後、力を注ぐようになった「医58座談会

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